序
面白かったら感想ください。面白くなくても感想ください。(感想乞食)
――世界に神はただ一人。
その神の名は〈レファル=アイン〉。
創世の神、秩序の神、そして希望の象徴。
人々はその名を讃え、神殿を建て、祈りを捧げ、神の言葉を預かる聖職者を通じて律されていた。魔法、文明、戦争さえも神の恩寵とされ、世界は〈神〉の掌で保たれていた。
しかし、ある日、一人の若者が真実を知る。
――その名はリュカ。
辺境の村に生まれ、司祭見習いとして修行していた彼は、ある夜、古びた地下神殿の奥で“禁書”を見つける。
それは、かつてこの世界に存在した“旧世界”の記録。
そこには、神は創造者ではなく、寄生者であり、幾千もの文明を滅ぼし、自らを神と偽って君臨してきた存在だと書かれていた。
神の正体を知ったリュカは、恐怖と混乱に苛まれながらも、村の神殿長に相談する。しかし、神官たちは彼を異端と呼び、村から追放した。
「お前は神を汚したのだ。……その罪、魂で贖え」
リュカは孤独に彷徨うが、似たように神に疑問を抱いていた人々と出会っていく。
ある日の夕暮れ時、王都セレスティアの空は、曇天に沈んでいた。
神の加護を信じる人々は、天の気まぐれに意味を求めて祈る。
だが、リュカはもはやその祈りの無意味さに気づいていた。
何か少しでも手がかりがつかめれば、と思い入った王都の第図書館の第四図書保管室でそれらしきことが書かれていそうな本を何冊か選ぶ。だがかれこれ2ヶ月も同じようなことを繰り返しているが今まで見つかった手がかりなど何もなかった。
ふと部屋の隅を見るといつも座って本を読んでいる定位置にあるはずの椅子が無い。いつものリュカならばすぐに違う椅子を探して違う場所に行っただろう。わざわざなくなった椅子を探すなんて面倒くさいことはしない。
だがこの日は何かに吸い込まれるように椅子があったはずの隅へ向かった。そして向かった先の横には本を抱えて寝息を立てている少女ーーエリシアがいた。
その日から二人は一緒に本を読むようになった。仲良くなっていくにつれ会話の断片からエリシアの境遇がどのようなものかリュカは理解していく。
二人が出会ったのは偶然ではなかった。
生まれ育った村で過ごした幸せな日々を、これからも続いていくはずだった平穏を、世界の真実のかけらを知ったために奪われたリュカ。
貴族の家に生まれたが神のお告げにより実の兄が幽閉され、”神の奇跡”と称した実験に利用され兄の命を失ったエリシア。
神の名のもとに理不尽に大切なものを奪われ、嘘にまみれた信仰を背負わされた者同士が運命に引かれあっていく。
そうしてエリシアとリュカは真実を欲し誓いを立てる。
その日からリュカはエリシアの家に住み、二人で夜な夜な第図書館の本を読み漁り、ある時は危険をおかして禁書庫に忍び込んで禁書を読み、世界の裏に潜む神の正体に迫る日々を送った。
「“神は創造主にあらず。寄生者にして、偽りの王なり。”……この写本、前時代文明の記録書よ。信じられない量の文明が、同じ構図で滅びてる」
エリシアが指差した古代語の記述に、リュカは頷いた。
「やはり……神は“育む者”じゃなくて、“喰らう者”なんだ」
真実を追い求める二人の間に、奇妙な結束が生まれていた。
兄を奪った奇跡の真相を追い求めるエリシアと、神の矛盾に絶望したリュカ。
その探究は、やがて王都の信仰に影を落とし始める。
そしてそれは、王国神聖騎士団の耳にも届いていた。
ある夜、第図書館からの帰り道、二人は神聖騎士団に拘束される。理由は“異端思想”の疑い。かつては神に仕え、民を守る者と信じられていた聖騎士たちは、今や神の手先になり、監視と弾圧を行うようになっていた。
地下の尋問室で二人を待っていたのは、上級聖騎士・ガルド。白銀の鎧に身を包み、鋭い目を持つ男だった。
「神に疑念を抱いた理由を話してもらいましょうか」
その声は冷酷だったが、どこかに揺らぎがあった。
エリシアが口を開く。
「私の兄は、“神の奇跡”で死んだの。教会は“神が選ばれざる者を裁いた”と言った。けれど、どうして兄が死ななければならなかったの?」
リュカも続く。
「俺の村で禁書とされ教会の奥にしまってあった本には今とは違う神の解釈が書かれていた。…まるで見られたく無いものであるかのように厳重に保管されてな」
数秒間の沈黙の後、ガルドが目を閉じた。
「……私も、かつて“神のお告げ”を受けました。『この村を焼き払え』と。だがそこにいたのは、ただの老いた農夫と幼い子供たちでした」
彼の声には、怒りと苦悩が混じっていた。
「神の言葉を信じたくなかった。だが同時に神の言葉を信じたかった。自分が今まで尽くしてきた主を。私は迷った結果……この手で罪なき者たちを焼きました」
静かな沈黙ののち、ガルドは二人の目をまっすぐ見つめた。
「もし、君たちの話が真実なら……私は、神の偽りに加担した罪人です。だがそれでも、君たちに手を貸したい。自分がした事が、してきた事が正しかったのかを知りたいのです」
その夜、地下牢の鍵が静かに開けられた。
ガルドの手引きで王都を抜け出した三人は、追手を逃れながら北の山岳地帯を目指した。そこには古代魔法文明の遺跡があり、神の記録が残されているとエリシアが推測していた。
道中で出会ったのは、一人の少女。白い修道服に身を包み、独りで山奥に佇んでいた。
「神の癒しは奇跡なんかではない。あれは……力の搾取よ」
少女は名をフィオナと言った。
神殿で育ち、癒しの力を学んだが、その裏で“回復魔法”と呼ばれる力が、神の“許可”と”祈りの献上”なしには使えない構造になっていることに気づき、自らの力のみで使える回復魔法の体系を編み出すと同時に、その事が神官にばれて逃げ出してきたという。
「私は……本当に人を癒したいの。神の都合なんかじゃなくて、自分の意志で」
リュカが口を開いた。
「俺たちは、神の正体を暴こうとしてる。……君も来るか?」
フィオナは少し戸惑ったが、やがて頷いた。
「私も……私も信じたい。神の力ではなく、人の力を」
四人はついに北方の禁断の遺跡カタラの墓所へと辿り着く。そこに眠っていたのは、神を“創造主”ではなく、“宇宙的寄生生命体”と記した記録群だった。
神は、文明が一定の発展を遂げると現れ、“奇跡”という形で支配を始め、崇拝を強要する。反抗すれば罰し、従えば保護する。そして文明が神に依存した時、全てを喰らい尽くし、滅ぼして去っていく。
エリシアが震える声で呟く。
「私たちは……寄生されていたのね。信仰の形で」
リュカが拳を握った。
「信じたくはなかったが…こんなものが出てきた以上信じるしか…」
ガルドも剣を握る。
「私はこの事実を世界に知らせないといけない。それが私の贖罪なのだから」
フィオナの瞳にも、揺るぎない光が宿っていた。
「命を救う癒しは、こんな神に頼るものなんかでいいはずがない!」
真実の記録を公開し、神の実態を暴露する。それが4人の共通の目的となった瞬間だった。
だが、それは神聖騎士団を、教会を、神という全ての支配構造を敵に回すことを意味していた。
「…行こう。終わらせよう、この偽りを」
四人は、旅立つ。
神に抗うために。
そして、人の自由を取り戻すために――。
彼らは旧文明の遺跡や古代の魔道書がある場所を巡りながら、神の正体を暴く証拠を集めていく。
各地の神殿では“奇跡”と呼ばれたものが、実は神が民を支配するための方法であったこと、神の声とされる啓示がただの電気神経網からの信号だったことが明かされていく。
そして次第に、神の正体が単なる精神体や信仰に寄生する存在であり、信仰によって強化される“思念生命体”であることが明らかとなる。
この世界の崩壊は近い。神は十分な信仰を得ると、世界のエネルギーそのものを“喰らい”、新たな世界に移動するのだ。
それを止めるには、宗教の総本殿である“神央殿”に潜入し、神の本体が眠る“神核”を破壊するしかない。
旅の途中、彼らは多くの悲劇を経験する。
かつての仲間が神に操られて敵となり、信じた民に石を投げられ、真実を叫んでも届かない。
だが、リュカは折れなかった。
「俺たちが信じるべき道は定まっている。全ては、未来のために」
彼の言葉に導かれ、徐々に仲間は増えていく。旅芸人、鍛冶師、元聖女、盗賊王――神に見捨てられた者たちが集い、〈神殺しの徒〉と呼ばれるようになる。
そしてついに神央殿への突入を決行。神央殿の周りを警戒する下級天使たちを仲間に任せ、リュカ、エリシア、ガルド、フィオナの4人は神央殿内に侵入した。
神央殿の中で彼らを待っていたのは、神の代行者と名乗る十二の守護天使たちだった。彼らはかつて英雄であり、聖者であり、王だった者たちの魂を神が歪め、改造した存在。その力は神に迫るほどであり、リュカたちにとっては一戦ごとが命懸けだった。
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