笑った少女と笑うままの少女
「こうで…こうで…あ、あった!…」
広田真琳と書かれている下駄箱を発見したが上履きもローファーもなかった。
埃まみれの名前を見ながら不快深いなため息を吐く。
(真琳…ほんとどこに行っちゃたんだろう…?家に帰ったのかなぁ…?でも勝手に帰るのはちょっと失礼なんじゃ…。)
うーんうーんと悩み、気づけばまた自動販売機の前にいた。急に糖分が欲しいと脳が訴えた為、ポケットからミントグリーン色のお財布を出す。
そういえば私が買ったオレンジジュースはどこだっけ?と思ったが少し疲れたし休憩をとる事にした。
(オレンジジュース……は飲んだからたまには違う味でもいっか…。)
私は紙パックの桃ジュースのボタンを雑に押して取り出した。ストローをぷすっと刺して勢いよく吸い込むように飲む。桃の甘い香り、果汁いっぱいの甘酸っぱさが本当に
「あ、おいしい…!」
「あれー!絶対オレンジジュースだと思ったのにハズレちゃった!」
びっっっっくりして私はせっかくの桃ジュースを吹いてしまった。だって後ろにニコニコと笑う真琳が居たから。
「ゴホッ、ゴホッ、え?まっ!真琳!?」
「うん!そうだけど大丈夫?なんかびっくりさせちゃったね!ごめんごめん!」
今までどこにいたのか聞きたいとこだがそれよりも気になる事がある。
あんな質問をした人とは思えない程、真琳はいつも通りに接して来るのだ。
笑顔で。優しく。
さっきのはイタズラなのか?それとも夢だったのか?でもあの質問は何の意味があるのか?
いつの間にか治った頭痛はもうないのにまた頭を抱え込んでしまう。
それを見た真琳が少し心配する素ぶりを見せる。原因はあなたなんですけどね…。
「どーしたの紫音…?頭でも痛い…?」
「…ううん少しめまいがしただけ。もう平気。私は大丈夫。」
「そ、そっか……よし!決めた!」
「え?な、なにが??」
「少し学校の中散歩しよっか!気分転換!」
ええええぇぇぇ……………。
手首を掴まれ私は真琳に連行されるように廊下を一緒に歩かされた。聞きたい事がいっぱいあるのにお構いなくズンズンと進む。
とりあえず後で聞こうと開き直り、桃ジュースを一口だけ飲みながら真琳の横顔をチラッと見た。
クリスマス前の子供のように笑う真琳を見て少し心が安堵した。歩くたびに揺れるハンサムショートの髪が本当に綺麗でつい撫でたくなってしまう。
もちろんそんな事はしない。…多分。
何か水たまりを踏んだ感触があったけど気にならなかった。
1秒でも長く嬉しそうな真琳の顔を眺めていたいから。柑橘系の香りがするがきっと真琳のシャンプーだろう。
そんな事を考えながら長い黒髪を少しわざと揺らし、私は真琳と一緒に廊下を歩いた。