忘れた少女と忘れられた少女
「 」
その言葉を聞いて私は病室から逃げた。
ぼろぼろと溢れる涙を見せたくないから?
―違う
変わり果てた親友の姿を見たくないから?
――違う違う
その言葉に絶望したから?
―――違う違う違う
この出来事を 悪夢を 現実を 忘れたい。
忘れたいから。
その願望…いや、欲望を抱いた瞬間、私の体は巨人に投げ飛ばされるように吹っ飛んだ。同時に狼の群れに喰い殺されるような激痛と衝撃が襲い掛かる。
いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい!
心が叫んでいる中、ぼんやりと見える先にはトラックと慌てて降りる中年の運転手。…いつの間にか外に出てたんだなぁ…とようやく頭で理解が出来た。
もうじきに意識の糸が切れると思った時、視界のさらに奥。電柱のすぐ下にたんぽぽがみえた。
咲いたばかりなのかまだ小さい。見慣れているのになぜか目が離せない。
傷だらけでぴくりとも動かせないはずの腕が。
手が。
痛みに逆らいながらたんぽぽに向かって伸ばそうと努力する。
なぜそんな事をするか私だけが知っている。
それは
「…ま"……り"ぃ…ご、…ごめ」
道を歩いていた男性が、咲いているたんぽぽに気づかないまま、踏んだ時。
私 秋川紫音の意識の糸は 切れた。