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4.そうしてまた、日常に……?






「おい、聞いたか! 生徒会長がさ……」

「聞いたよ、目が覚めたんだってな!」

「近いうちに戻れる、ってさ。……安心したよ」



 学校へと向かうと、クラスメイトのそんな会話が耳に入ってくる。

 色々と聞くところのよると、どうやら麗華は本当に目を覚ましたようだった。いくつかの検査は必要とのことだったが、早ければ数日で元の生活に戻れるらしい。俺はその話を聞いて、こっそりと胸を撫で下ろした。



「…………また元通り、か」



 しかし、どこか切ない気持ちになってしまう。

 昨夜の出来事はまさに、懐かしい夢のようであった。地元に帰ってきてからも、まともに言葉を交わすことのできなかった麗華との貴重なひととき。いまだに信じ切れないでいるが、霊体だったとはいえ、俺は彼女と昔のように手を取り合った。

 その際の麗華の表情は、俺の良く知る女の子のもので。

 だからこそ、こんなにも切ないのだ。



「なんかあったの。……律人?」



 そんな俺の機微を感じ取ったのだろうか

 隣の席にだらしなく座る海晴は、不思議そうに訊いてきた。しかし当然ながら、麗華が霊体になってアパートにきた、などと説明できるわけがない。もし話そうものなら、いよいよ頭がおかしくなったと思われるに違いなかった。



「ん、別に大したことじゃないよ」

「…………そうかー? なんか、そうは思えないんだけど」

「本当だって」

「ふーん。アタシには、話せないって……?」

「いやいやいや。誰もそんなこと、言ってないだろ」



 そう考えて適当に誤魔化そうとする。

 だが、何やら今日に限って海晴は食らいついてきた。頬杖をつきながら、幼馴染みはこちらを舐め回すように見つめてくる。――とはいえ、確固たる証拠があるわけでもない。彼女はしばし考え込んだ後、途端に明るくこう言うのだった。



「……まぁ、律人みたいな鈍感野郎なら心配ないか」

「あ……?」



 だが、今度はこっちが黙っていられない。


 いったい誰が『鈍感』だというのか。

 必ずしも色恋に詳しいわけではないが、いまはそんなこと関係なかった。こちらとしても、小馬鹿にされたまま引き下がるわけにはいかない。

 俺は不機嫌に海晴を睨むと、彼女は意地悪い笑みを浮かべていた。



「……おい、海晴。そういうお前はどうなんだよ」

「はっ! どうしたってのさ、律人。ずいぶんと余裕がないみたいだけど?」

「別に、そんなことないぞ? それで、お前はそういう話あるのかよ」

「さーてね。仮にあったとして、律人には関係なくなーい?」

「……ほー、そうくるか」



 そうやって鍔迫り合いするかのように睨み合う。

 互いの腹の中を探り合い、ジリジリと時間だけが過ぎていった。周囲のクラスメイトは呆れてこちらを見ているが、あらゆる意味で恥ずかしくなった方の負けだ。

 俺はそう思って、あえて真正面から海晴の目を見つめる。

 すると、



「…………う、ぐ」



 海晴は何やら顔を赤くして、あからさまに視線を泳がせた。

 俺はその隙を見逃さず、ドヤ顔で宣言する。



「ふ……どうやら、俺の勝ちみたいだな!!」



 だが、すぐに海晴は我に返った様子で叫ぶのだった。



「ま、負けてないもん! この……鈍感律人!?」

「うぐっ……!?」



 そして何故か、俺のみぞおちに拳を一撃。

 完全に不意を打たれた自分は、情けなくもその場に膝をつくのだった……。







「ったく、海晴のやつ……」



 そうして、何事もなく一日が終わる。

 日常が戻ってきて寂しくもあるが、それでも焦ったって仕方ない。麗華との関係については、また彼女が登校してから考えればいいのだ。

 したがって、いまの自分にできることはない。

 俺はそう結論付けてから、ゆっくりとアパートのドアを開いた。




「おかえりなさい、律人!」

「あぁ、ただいま」




 すると、こちらを出迎える声があって。

 俺は軽く返事をしてから、いつもの場所に荷物を置くのだった。



「あー、思ったより痛むかな」

「どうしたの?」

「いや、馬鹿なことやっててさ。海晴にみぞおちを殴られ――」



 そして一言、二言の会話をしてから気付く。



「え、殴られたって……大丈夫なの?」

「………………なぜ?」

「え……?」






 物凄く自然な雰囲気を漂わせながら。

 俺の目の前で、麗華が小首を傾げていることに。




次回、夕方更新だと思う。




面白かった

続きが気になる

更新がんばれ!




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