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プロローグ 故郷。

ラブコメです(*'▽')ノ





「えー……以上のことから、この公式は……」



 数学担当の先生が、淡々とした口調で教科書の内容を説明する。

 俺はその様子を窓際最後尾の席から眺め、退屈さを隠そうともせずに大きな欠伸をした。取り立てて勉強が苦手なわけではないけれど、だからといって気分良く取り組めるというわけでもない。

 それはちょうど、隣の席に座る幼馴染みも同じだった。

 学校指定のブカブカなジャージに袖を通した彼女は、欠伸どころか机に突っ伏して健やかな寝息を立てている。俺はそんな悪友の姿を見て、少しだけ呆れていた。



「……そうだな。これも、海晴(みはる)のためだ」



 せっかく同じ高校に通っているというのに、このままでは留年してしまう。

 彼女がそうなったら、俺だって悲しい気持ちになるだろう。

 だから、ここは苦渋の選択をするしかなかった。



「えー……次の式の解き方が分かる奴はいるか?」



 先生の言葉に合わせて、俺は海晴の弱点である脇腹をくすぐる。

 すると、幼馴染みはすぐに目を覚まして――。



「はひぃん!?」

「……ん、珍しいな湊。お前が手を上げるなんて」

「へ……?」



 ――ガタン、と勢いよく立ち上がってクラスメイトからの注目を集めた。

 先生も上手いこと勘違いしてくれたらしく、海晴に数式を解くように指名する。ただ当の本人はその幼い顔に困惑の色を浮かべており、助けを求めるようにしてこちらを見るのだった。

 だが、これも大切な幼馴染みのためだ。

 俺は心を鬼にしつつ、満面の笑みを浮かべながら親指を立てて告げる。



「お前ならできるさ、海晴。……頑張れ!」

「ア、アンタのせいか、律人ォォォォ!?」



 すると海晴は何故か声を荒らげ、俺の名前を叫ぶのだった。





「なぁ、海晴。いつまで怒ってるつもりだ?」

「うるさい、バカ律人!! アタシが数学なんて、できるわけないだろ!?」



 ――放課後、俺と海晴は一緒になって下校していた。

 それというのも先ほどの授業にて、俺が善意からの行った悪戯が原因である。



「それなのに黒板の前に立たされて、頭の中真っ白だったっての! 思い切り恥をかかされたんだから、アイスぐらい奢れよな!?」

「ずいぶん根に持ってるな」

「当たり前だろ!!」



 あの後、幼馴染みは顔面蒼白で黒板の前に立つことになった。

 頭の中が真っ白だったのは真実だろう。彼女はしきりにこちらへ助けを求めて、泳いだ視線を向けてきていた。俺は心を鬼にして外を眺めつつ口笛を吹いていたのだが、どうにもその態度が海晴の逆鱗に触れたらしい。

 ――で、いまに至るわけだ。

 通学路の途中に有名な店があるらしく、そこのアイスを奢ることになった。



「うーん……一人暮らしだから、余裕ないんだけど」

「自業自得だっての! それなら今後、あんな悪戯すんなよな!!」

「それは約束できない」

「なんでだよ!?」



 俺が即答すると、海晴は地団太を踏む。

 喜怒哀楽の変化が激しい彼女は、見ていて飽きなかった。このように楽しい人物で遊ばないのは損――もとい、気にかけないのは無理な話だろう。

 そう思いながら、俺はふとこう口にした。



「それにしても、たった三年でずいぶん変わるんだよな」

「ん、どうしたのさ。急に」

「いや、景色とか色々」

「あー……色々、ね」



 こちらの言葉の意図を汲み取ったらしい。

 海晴はそう言うと、小さく肩を竦めながら訊いてきた。



「さすがに一年経ったから、三年振りの故郷にも慣れただろ?」



 それを聞いて、俺は少し考えて答える。



「いや……一気に変わりすぎて、まだ気持ちが追い付いてない。それに去年は、初めての一人暮らしで手一杯だったからさ」

「それもそっか」



 すると幼馴染みは、頭の後ろで腕を組みながら空を見上げた。

 どうやら俺が帰郷してからの一年に、僅かながらの思いを馳せているらしい。それを見て、こちらも同じことを考えることにした。


 三年振りに帰ってきた故郷。

 そこで始まった一人暮らしと、再会した幼馴染みについて――。



「それにしても。まさか、本当に帰ってくるとは思わなかった」

「それは、ずいぶんな言い草だな。海晴は信じてなかったのか?」

「別にそういうわけじゃないけどさ。でも所詮は、小学生の約束だろ? 連絡がきた時は、マジでビビったって」

「まぁ、それもそうか……?」



 感傷に浸ろうとしていると、件の幼馴染みは呆れたように言う。

 ずいぶん薄情な言い方のように思えるが、しかし普通に考えたらその通りかもしれない。親の都合で小学校卒業と同時に引っ越した奴が、約束したからといって帰ってくる――自分のことながら、なかなか思い切ったことをしたものだった。


 もし俺が海晴の立場なら、同じ反応をするかもしれない。

 だけど、間違っていたとは思わなかった。



「……あ、その道を曲がったら見えるはずだよ」



 などと考えていると、目的地が近づいたらしい。

 海晴が少しばかり声を弾ませて、こちらの手を引いてきた。俺はそれに従って、素直についていく。すると、そこには――。



「さて、到着――って……げ!」



 どうやら、先客がいたらしい。

 その人物を見た海晴は、あからさまに嫌そうな声を発した。



 そこにいたのは一人の女子生徒。

 長く伸ばした美しくも色素の薄い髪に、均整の取れた顔立ち。スラリとした身体つきはモデル顔負けで、道行く人々の視線を集めていた。視線からは心の機微を感じ取れないが、少なくとも俺たちの存在は認識しているらしい。

 絶世の美女といって過言ではない彼女はこちらを一瞥し、そして――。



「あ……待てよ、麗華!」



 何も言わず立ち去ろうとするので、俺は思わず彼女の名を呼んだ。

 すると彼女――有栖麗華は立ち止まって、肩越しに振り返る。すぐに沈黙が場を支配しようとしたが、俺はそれを振り払うようにこう訊ねた。



「お前も、アイス買いにきたのか?」

「………………」



 しかし、返答はない。

 いよいよ本格的に気まずくなるが、そこで口を開いたのは海晴だった。



「ばーか、律人。あの生徒会長様が買い食いなんて、するわけないだろ?」



 彼女はそう嫌味らしく言うと、やや乱暴に俺の手を引く。

 そうして店先まで移動し、こう続けるのだった。



「……さ、どれ頼む?」――と。



 まるで有栖麗華など、その場にいないものとして扱うように。

 俺は思わずアイスに視線を持っていかれて、それでもすぐに生徒会長の姿を確認しようと振り返った。だけど、そこにはもう――。



「………………」





 ――有栖麗華の姿は、なかった。



 


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