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【第29話:卒業 <最終話>】

***


 卒業を迎えるまでの2年間はとても長かった。

 その間ずっと好きな人を遠くで見るのは、辛くもあり、楽しくもあった。


 でも片想いをしている人なら、みんなこんな日々を過ごすんだろうな。

 それに比べたら俺は、まだ幸せな方だ。


 なぜならば自分が想いを寄せる相手が、自分のことを好きだってわかっているから。

 2年我慢すれば、この恋が成就じょうじゅするってわかっているから。


 しかも幸いにして、3年生でもふわり先生が担任だった。

 これはめちゃくちゃラッキーだ。


 とは言え──人の心は移ろいやすい。

 卒業を迎える頃に、ふわり先生の気持ちが離れている可能性はある。


 けれどもそこは彼女を信じるしかなかった。

 学校で顔を合わせた時に、さり気なく微笑んでくれるその笑顔を信じるしかなかった。


 俺自身はと言うと、ずっとふわり先生を好きなままだった。

 いや。好きな気持ちがより膨らんでいった。


 ところで先生を好きになって、俺が変わったことがある。それは勉強だ。

 勉学に関しては、それまでは惰性でやっていた。

 だけど先生に心配をかけたくないし、立派な大人にならなきゃいけないという気持ちが生まれた。

 だから結構がんばって勉強をするようになった。


 おかげで受験では第一希望の地元の国立大学に合格し、無事に進路が決まった。

 そして──とうとう待ちに待った卒業の日がやってきた。


***


 体育館での卒業式は滞りなく催行された。

 そして全員が教室に戻って、最後のホームルームが行われた。


 着慣れないスーツの胸にリボンを付けて、いつもよりも綺麗に化粧をしたふわり先生が、教壇に立っている。


「みんな卒業おめでとう! そして私の生徒でいてくれてありがとう!!」


 先生が涙を流して大きな声でそう言うと、みんなが熱い言葉を返した。


「センセー! こっちこそありがとぉ~っ!」

「ふわりちゃんが担任で良かったぁ~~~!!」

「サイコーだよふわり先生っ!」


 教室内は最高潮に盛り上がっている。

 2年生の時に『生徒に舐められている』と自信を無くしていたふわり先生は、もうどこにもいない。


 生徒に慕われ、信頼され、愛されている先生がそこにはいた。

 先生の顔も自信に溢れているし、とってもいい顔をしてる。


 うん、成長したよねふわりちゃん。


 ──って、生徒の俺が偉そうに言うことでもないけれども。

 でもあの時には俺はアドバイスしたんだし、それくらい言ってもいいよね?(笑)


 最後のホームルームが終わり、生徒達は三々五々教室を出て行く。

 いくつかのグループに分かれて、打ち上げに行くようだ。


「穂村も行くだろ?」


 男女20名くらいのグループでカラオケに行くらしい。主催者の春田が声をかけてくれた。


 陽キャの権化ごんげみたいな男子で、2年の時も同じクラスだった彼だ。

 そう、ふわり先生に好意を持っていた男子。


 3年になっても教室で目立たないまま過ごした俺にも声をかけてくれるなんて。

 やっぱいいヤツだな。


 だけど俺はこの後、ふわり先生と話をする約束をしている。


「ああ、参加するよ。でもちょっと用事を済ませてから、あとから行く」

「おうわかった。店の場所は──」


 俺は店の名前と場所を確認してから教室を出た。

 そしてふわり先生と待ち合わせをしている校舎裏に向かう。


 校舎裏に着くと、そこには既にふわり先生が待っていた。


「穂村君、卒業おめでとう!」

「ありがとう。ようやく卒業だよ。長かった」

「そうだね」


 スーツ姿で背筋をピンと伸ばした先生が、優しく微笑んで真っすぐ俺を見ている。


「ふわり先生。これで今日から、晴れて俺達付き合うってことでいいんだよね?」


 きっと、たぶん、大丈夫だろうって気持ちはある。

 だけどやっぱり不安はある。

 だから俺は、恐る恐るそう尋ねた。


「そのことだけどね穂村君。私色々と考えたんだ。それでね……」


 なんだろ。嫌な予感がする。

 胸がぎゅんと痛んだ。


「やっぱり私たち、付き合わない方がいいかもって思ってる」

「……え? なんで? 俺のこと、好きじゃなくなった?」


 そんなはずはない。

 ふわり先生が普段俺に向ける目は、決して冷めたものじゃなかった。なんでだよ?

 訳がわからない。


「ううん、今も大好きだよ。むしろ前よりも、もっと好きだよ」

「じゃあ、なぜ?」

「だって穂村君はこれから大学に進学したら、たくさんの出会いが待ってるんだよ。同世代の女の子にもたくさん出会うんだよ。その時になって、きっと後悔すると思うんだ。私なんて6歳も年上のオバサンだからさ。穂村君もそのうち『早まったなぁ』って思うに決まってる。最近ようやく、そこに気づいたんだ。だから私、身を引くよ」


 おいおい。なんて健気けなげなこと言うんだよ?

 可愛すぎでしょ。

 でもそんな気遣いは完全に間違ってるよ。


「は? そんな童顔で、おっちょこちょいな性格なのに、年上ぶるのやめてくれる? 俺はバーのバイトで経験も豊富だから、きっと俺の方がオトナだぞ?」


 ふわり先生の頬がピクリと引きつった。

 うわ、怒らせちゃったかな?


 って思ってたら、みるみるうちにふわり先生のほっぺがぷっくりと膨らんできた。


「ふーんだ! どうせ私は子供ですよっ!」


 先生は頬を膨らませて、可愛く怒った。

 それからふと真顔に戻って、しみじみと言う。


「ありがと。やっぱホト君は大人だわ。好きで好きで大好きだよ」


 ──あ。口は悪いけど、俺が先生を気遣ったことに気づいている。

 やっぱふわり先生は大人だ。


「だったら穂村君。これからよろしくね」


 ふわり先生はぺこりと頭を下げた。

 俺も慌てて、先生に合わせて頭を下げる。


「こちらこそ。可愛くて素敵なふわり先生……いや今日から、ふわりちゃんだな。大好きだよ」


 これからは気兼ねなく付き合える。嬉しい。


「ありがとう。ホト君……いえ、今日からワタルって呼ぶわ。カッコ良くて素敵なワタル」


 笑顔のふわりちゃん。その大きな瞳から大粒の涙が流れた。

 嬉し涙ってヤツだな。


「大好きっっっ!!」

「うわっ」


 突然予告もなく、がばっと抱きつかれた。

 ちょっ、待ってよ。

 裏庭とは言え、ここ学校だぞ。


 でもそんなふわりちゃんが、可愛くて可愛くて仕方のない俺だった。


 ──終わり。

最後までお読みいただきありがとうございました!

感謝です。


本作はここで完結とさせていただきます。

「付き合ったら完結」というタイプの作品ですみませんm(__)m


また次作でお会いしましょう!


============

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結お疲れさまでした。 他の娘達はどうなったん?って聞くのは野暮ですかね。
[一言] 完結お疲れさまでした。 クラスメイトの娘が絡んでくるかなあ、と思いましたがあっさりfoしてしまったので、あとはふわりちゃん一直線でしたね。 年の差6つなら大して大きくはないですが、まあ大学卒…
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