表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/30

【第1話-①:バイト先のバーに担任教師が来た!】

新連載開始です。

4~5万文字程度の中編になる予定です。

 ──誰だって隠しておきたいことってあるよね?

 そう。俺にだってある。


***



「ねぇホト君。あたしと結婚しよーよ。養ったげるからさ」

「しねぇよ」

「あ、つめたぁーい!」


 俺は17歳の高校2年生だから、まだ結婚なんてできない。

 だけどバーでバイトをしているから、ホントの年齢はお客には言っていない。


 ──まあ結婚なんて、もちろん冗談なんだろうが。


「はいはい。キララさん、そろそろお店に戻らないとマズいだろ。よ帰れ」


 このバー『calm(カルム)』はカウンター席だけの小さなお店。


 キララさんは近くのキャバクラで働く嬢だ。自分の仕事の合間に、このバーに客として息抜きに来ている。

 だからあんまり長時間油を売ってると店長に怒られるんだ。

 この前もこっぴどく怒られて、今後は気をつけますって言ってたくせに。

 だからそろそろ店に帰した方がいい。


「やっぱホト君、つめたぁーい! 氷点下千兆度!」

「氷点下に千兆度なんてねえよ」

「ふぇぇぇん、真紅しんくさぁん、コヤツに何とか言ってよ! お客に対して冷たすぎるっしょ」


 助けを求められた真紅姉さん──この店の経営者だ──は、苦笑いを返す。


「ごめんねぇキララちゃん。コイツ、こういうキャラだから。まあ、あとでこっぴどく叱っとくわ」

「うん。でもまあ、そういうドSなとこもホト君のカッコいいとこなんだよねぇ。スキ」

「なんだい、結局好きなんかぁーい!」


 真紅姉さんが手の甲をキララさんの肩に大げさに打ちつけて、盛大にツッコんだ。


「まあね、てへっ」

「かわい子ぶるのはもういいから、早く店に戻れよ」


 俺がもう一度追い打ちをかけた。


「わかったよ。また来るかんね」

「おう。待ってる」

「あれれ、最後だけ優しいんだ?」

「俺はホントは優しい男なんだよ」

「そっか、じゃあね」


 キララさんは目を細めて、派手なネイルの手を振って帰って行った。


 今日は珍しく、早めの時間なのにもう誰も客がいない。店内に急に静寂が広がる。

 真紅姉さんが「ふぅ~」とひと息ついてから、その美しい瞳で俺を睨んだ。


「だからわたる。もうちょっとお客さんに愛想よくしろって」


 ワタルは俺の本名。ホト君ってのは店でのビジネスネームだ。つまり源氏名ってやつ。


「やだよ。愛想振りまくなんてめんどくさい。こういうキャラも、これはこれで女性客受けはいいし」

「まあね。ワタルのそのドSキャラに惹かれる女の子が多いおかげで、このバーは流行ってるのは確かだけどさ」


 真紅しんく姉さんが整った顔を少し歪めて、自虐気味にため息をついた。

 姉さん──と言っても実の姉ではなく、俺の従姉いとこなんだが、俺は真紅姉さんと二人暮らしをしている。


従弟いとこがモテモテなのは私としても嬉しい限りだよ」

「本気で言ってる?」

「ああ。本気も本気。大マジだよ」


 いや、なんか言い方がウソ臭い。


「けど言っとくわ。お客にもっと愛想よくしろ」


 マジな目つきで睨まれた。

 なんやかんや言って姉さん怖い。


 真紅姉さんはピンク色のショートボブで話し方は男っぽいきっぷの良さがある。

 真剣に怒られると、かなり怖いのである。


「へぇい。わかったよ」

「わかればいい」

「それにしても真紅姉さん。今日はもしかして”アカン日”かな。客足止まっちゃったし……」

「そうかもね」


 今日は日曜だし、ウチみたいな店は平日の方が客が多いし、こんなもんか……


 ──って思ってたら、急にドアが開いた。

 ちょっと酔った感じの若い女性客が、一人でバーの店内に入ってきた。


「いらっしゃい。どうぞ」


 真紅姉さんが笑顔で迎え、カウンター席の椅子に手のひらを向けて誘導した。

 清楚なワンピースの真面目そうな女性だ。こんな感じの女性が一人で来店するなんて珍しい。


 ──なんて呑気に女性客を見ていたら、見覚えのある顔であることに気づいた。


 うわ待て。この女性客──。

 俺の高校のクラス担任教師なんですけどぉぉぉ!!


***


 高井田たかいだ ふわり。それが彼女の名前だ。

 大学出たての22歳。身長145センチと小柄で、お目目ぱっちりの童顔。名前のとおり、ふわりとした栗色の髪。


 とても可愛い見た目なのである。

 だけど生真面目で頼りないところから、生徒からは『ふわりちゃん』などと呼ばれて舐められて……いやいや、親しまれている。


 その担任教師が店に入ってきた時には心臓が破裂するかと思った。

 ウチの高校は校則が厳しくて、基本的にバイトは禁止。ましてやアルコール提供してる店で働いていることがバレたら、運が良くて停学。下手したら退学案件だ。


 だけどふわり先生は酔ってるせいなのか、目の前にいるバーテンダーが自分の生徒だなんて、まったく気づいていない様子である。


 俺はこの店では髪を後ろでくくって、顔をハッキリ出している。

 だけど学校では、黒縁の伊達メガネをかけた上に、顔がわからないくらい前髪を下ろしている。しかも普段ほとんど喋らないし、うつむいていることも多い。


 色々と事情があって、学校では他の人とは極力関わらないようにして、モブな存在でいるのである。


 先生ともまともに顔を目を合わせて話したことなんてない。だから高井田先生が気づかないのも当然とも言える。


「お待たせしました」


 先生ご注文のオレンジベースのカクテルをカウンター越しに、先生の目の前に置いた。


「うわー綺麗!」


 ふわり先生は嬉しそうにグラスを手にして口をつける。


 ……って、おいおい!

 ゴクリゴクリと一気飲みしたよ、この人!


「ぷはぁ、美味しい! おかわり!」

「あ、はい」


 結構アルコール度数強めの酒なのに……大丈夫なのか?

新作書籍 9/20発売しました。

よろしくお願いいたしますm(__)m

『クラスのプライド高めなお嬢様。家では俺のメイド』(ファンタジア文庫)

◆公式サイト https://fantasiabunko.jp/special/202309mymaid/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ