そう、ここから……
結香は呆然とした頭で目の前に転がる死体を見下ろしている。
二発目をくらわし、ついぞ動かなくなった恋人の死体。
結香は思わず後退り、壁に背中をつけた。
その時ちょうど背後に照明のスイッチがあったため、室内は一瞬にして暗転する。
蒸発していくかのようにゆっくりと力が抜けていき、冷たい床へ座り込む。
男の亡骸を前にして、結香はどうしてこうなってしまったのかを考える。
行き着く先は悪魔——自分は悪魔に取り憑かれていたのだと、結香は信じた。
そして次に、遺体の処分を考える。
部屋の中を見回し、そしてキッチンに目が行く。
キッチンに置かれた、黒くてがっしりとした、大きな圧力鍋……。
そうだ。あれを使えば……。
誰か、誰かもう一人いれば、もう少し……。
そして彼女の頭に一人の人物が浮上する。
そうだ。あの大学生なら……。隣に住むあの子なら、きっと協力してくれるはず。
顔を合わせるたびに、あの子は好意的な眼差しで私を見つめていた。
結香は濁り切った眼差しで、腰を持ち上げる。
そう言えば、あの子の名前は何と言っただろうか……。
ここへ来る際、よく顔を合わせる彼……黒髪で……よくすれ違う……。
えっと、名前は確か……しゅう……。
——そう、修だ。小渓……修。
小説家になろう春季企画『春の推理2023』ということで書かせていただきました『隣人の殺人』いかがだったでしょうか。
去年描いた『思い出の一本桜 〜第三の復讐の謎〜』とは違い、今回はかなり余裕を持って準備できたので、それなりに落ち着いてこの日を迎えられました。
前作に比べ、グッと文字数を減らしたのでこちらの方が読みやすいと思われます。
短編ということもあり今作は物語ではなく、構成自体にミステリー要素を取り入れてみました。ですがやはりミステリーには探偵が欲しいというのであれば、前作の方が……いいのかな。
まだまだ稚拙ではありましょうが、最後まで読んでくださりありがとうございました。今後とも適宜ミステリーは書いていこうと思っていますので、その時はまたよろしくお願いいたします。