事故の原因
ある山道に、何十年も工事中のトンネルがある。そこでは事故が多発しており、事故防止の工事をする予定だったが、なんでも、そこを工事しようとすると必ず不幸に見舞われ、工事業者はどこも請け負わなくなったそうだ。尤も、高速道路が通り、あえてそこを通行しようとする人も減ったため、現在は事故注意の看板と野ざらしになったコーンや、工事中、片側交互通行時に使う無人信号機が置いてある。
そんな道を、ある日、同僚が高速代をケチって通った時の事だ。信号が青になったので通行しようと車を進め、トンネルの中を走る。トンネルは崖沿いにあり、景色が見えるようにか、太陽の光を取り入れるためかはわからないが、片側が向こう側が見えるよう窓を設けてある。海岸沿いのトンネルでたまに見る形状だ。加えて、トンネルは下り坂になっており、徐々にスピードが上がっていく。そのため、崖の上から見下ろす渓谷の景色に見とれ、事故を起こす人が多発しているようだ。同僚も同じく、景色を見ていたら……前方のカーブを曲がり切れず、事故を起こしてしまった。
「馬鹿だよお前」
見舞いに行って初めに、私はそう言ってやった。
「うるさい。部長、怒ってた?」
「そりゃそうだろ。勝手に高速使わず事故ったんだから」
「だよなぁ……あーあ、ずっと入院してたい」
入院するほどなので心配していたが、1週間ほどで退院できるらしい。本人も元気そうでよかった。
「馬鹿言うなよ。けど、よくあの道通ろうと思ったな」
「え?」
「知らなかったのか? あそこは事故が多いから避ける人がほとんどなんだよ」
「まじか……何で事故多いんだ?」
「景色に見とれるやつが多いんだってさ」
「ああ……」
同僚は一人、何かに納得している。
「どうした?」
「いや……だからなのかなって」
「何が?」
「崖から飛び降りる人がいたんだ」
「……どういうことだ?」
同僚曰く、崖の上から、飛び降りる人がいたので、そちらに気を向けてしまい、スピードが出過ぎたそうだ。だが、同僚が気になっていたのはもう一つあり。
「これ」
同僚は、スマホを私に手渡す。画面は、動画の再生待ちとなっている。
「なんだよ?」
「ドライブレコーダーの履歴。警察が確認した後に返してくれたんだよ。その時の映像を一緒に観たんだけど……映ってた」
私は好奇心を抑えきれず、再生ボタンを押す。そこには……確かに、崖から飛び降りる女性の姿が映っていた。そして……飛び降りて落下する間際。その女性は、こちらを振り返った。その口は何かを語りかけているように動き……落ちていく。
「数日前に行方不明になった人に似ているらしくて、捜索に向かったらしい」
「何で自殺なんて……あと、これなんて言ってるんだ?」
「さぁ」
「わからないのかよ」
「でも、怖いだろ?」
同僚は気にしていないようだ。でも、この女性は、何を伝えたかったのだろうか。その意味が分かるのは……同僚が退院した後だった。連絡を受けたのは、退院したその日の深夜。
「え?」
部長から連絡を受け、驚きと恐怖で動揺してしまう。それは、同僚が、あの自殺した女性と同じ場所で、同じように自殺したからだ。それが分かったのは、同僚と同じように事故を起こした人のドライブレコーダーに同僚が映っていたから。私は部長と一緒に本人確認のためその動画を見せてもらった。そして、飛び降りる瞬間、同僚はこちらを見て……何かを口にしていた。私は同僚が見せてくれたあの動画を思い出し……
「あ!」
気づいてしまった。飛び降りた女性と、同僚が口にしていたのは。
「お前も」
きっと、次は同僚に見られ、事故を起こした人が……こうして、あの場所はずっと続いているんだ。工事が進まない理由もそこにあるのかもしれないけど、場所が呪われているのか、人が呪われるのか……どうであれ、あそこを通ることは絶対に避けよう。
完