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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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98.乗り物

「わあ、何これ?」

 ポポロが倉庫に置かれた物を見て目を丸くした。それは流線形に加工された木製の構造物で、中は空洞になっており、横側には丸いはめ殺しの窓のついた扉がつき、出入りできるようになっている。表面には美しい装飾や彫り込みがなされ、ザパンと呼ばれる樹液で表面が塗り重ねられており、深い赤の美しい光沢を放っている。まるで美術品かと思うほどの豪華な作りであった。

「あのー、ポポロが持ってきた木箱の代わりにファーミアさんに作ってもらったんだ…」

 アールスが身の置き所のないような面持ちで、目を逸らし、呟くように言った。

 隣でファーミアがすました顔で立っている。


 少し前_。

「領主様の乗り物が出来ました」

 顔を輝かせ報告に現れたファーミアに案内され、倉庫にやってきたアールスは絶句した。 

 一目見た途端、贅を尽くした作りであることがわかり(話が違うじゃねえか)とアールスは狼狽えた。

「あの…ファーミアさん。これすごくお金かかってませんか?」

 恐る恐る切り出したアールスをファーミアは昂然と見返した。

「領主様は質素にとおっしゃいましたが、やはりあまりに質素な物では領主としての威信と品位に関わります。皆とも相談しこのようなものになりました」

「あんまり偉そうなのは嫌なんだけど…」

「領主様はお偉いのです」

 ファーミアは力強く返答した。しっかりとアールスを見つめる様子に、以前のおどおどとした様子は影を潜めている。こちらの方がのびのびと仕事をする彼女の本領なのかも知れない。頼もしいがなんだかこえーなとアールスは思う。孤児院時代に頭のあがらなかった姉のような存在がいたが、ふとそれを思い出した。

「領主様は無駄もなさらず、皆の意見も重視され僭越ながら頑張っておられます。これはナイガ様のような無駄な散財ではなく、しっかりと目的を持って作られた領主様の地位にふさわしい物です。心配なさる必要はありません」

「…」

 えらく褒められたが、わからないことばかりなので周りに聞きながらなんとかやっているにすぎない、そう判断しているアールスにはファーミアの評価はくすぐったい物だった。

 そんな時にバサバサと翼をはためかせてポポロが所用から帰ってきたのだ。


「あら、軽いし良く出来てるわね。それに豪華じゃない」

 ポポロが乗り物を容易く持ち上げ感嘆の声を上げた。そして横側の扉を開け中を覗き込んだ後、アールスに冷たい目を向けた。

「何よこれ、か弱い私がヒーヒー言いながらあなたを運ぶのに、あなたは中で優雅にお茶でも飲むつもりなのかしら」

 声も冷たい。乗り物の内部は座椅子や敷物が引かれ、中でゆったりとできる空間になっていた。

「俺はここまで頼んでねえよ。金かけんなって言ったよ」

 アールスは言い訳がましくファーミアにチラリと見た。

 ポポロに木箱に乗せられ王都へ行った帰りに、「陛下にあんな口を聞くなら、私ともそう言う風に話しなさいよ」と言われ、以後ポポロとアールスは対等に話すようになったのだ。

「そうなんだ」

 ファーミアに対してはポポロは特に怒るでもなく目を向けたが、ファーミアもまたポポロを静かに見上げていた。


「ポポロ様」

「あ…はい」

「先日、領主様を木箱に乗せて移動するという提案は、時間の節約からも大変いい案だったと思いますし、木箱に揺られた領主様を見た時は子供みたいで正直少し面白かったです」

 ファーミアはわずかに目を細めたが、すぐに真面目な口調に戻った。

「しかしその後領主様から、さすがに木箱ではどうもと言う意見を伺い、尤もだと思いました。そのため部下である私たちは相談し、領主の地位にふさわしいものをと考えたのです。今考えると私たちクロム領の領主様をあのような木箱に入れて陛下のおわす王都に運ぶのは少々配慮に欠けていたのではないかと思うのです」

「…え、あ…ごめんなさい」

 一気に下から捲し立てられ、ポポロはたじたじとなり少し小さくなったように見えた。

「ま…まあいいじゃないですかファーミアさん。ご厚意はよくわかりました、大事に使わせていただきます」

 アールスは慌てて取りなした。

「面白かったって言ってたくせにねえ」

 ポポロはアールスに顔を寄せひそひそと呟いた。

「何か?」

「何もないです…」

 キッと目を細めたファーミアにポポロは口を尖らせていった。

 なんといってももう出来てしまっているのだ。ただ一言言っておこうとアールスは口を開いた。

「今回はお任せしたのでとやかく言いませんが、今後は想定よりお金がかかると思うものは事前に相談して下さい」

 とは言ったものの計画の段階で相談されても、あの勢いのファーミアには、結局押し切られていただろうなとアールスは思った。


「あ…すみません。気をつけます」

 さっきの威勢は一気に吹き飛び、今度は顔を真っ赤にしたファーミアが小さくなった。しかし自分の意見が出せるようになってきたと言うのは良い傾向なのではないかとアールスは思っていた。

「しかしよく出来てるなあ」

 重さと形状的にもかなり快適になるはずだ。アールスは未統治地帯までの飛行が少し楽しみになった。

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