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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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97.ノマダスの手先

 ワトビアは面倒と切って捨てるが、それは平和で、他国を圧するほど強大なシュマルハウト王国に住む者の傲慢とも言える。他国からすれば魔王の国ノマダスとシュマルハウトが和平を結ぶとなると、平穏な気持ちではいられまい。

「じゃあアールスが領主になったのは悪手じゃねえのか?ますます結託を疑われそうだが…」

 ワトビアが尤もな疑問を口にした。

「どうしても疑うものは疑うのです。他国に対し忖度ばかりもしていられません。第一に考えるべきは国益です。他国に恐ろしい国だと思われる事も悪いことばかりではありませんよ。我々はノマダスに使節を送り、ノマダスの法律に則った正式な手続きでアールスが領主になったのです。何も臆することはないでしょう。和平はこちらにとっても願ってもないことで、意義も大きい。他国の批判を浴びてもここは進むべきかと」

 タミルは不敵に笑った。他国のものが聞くと傲岸不遜にも映りかねないがタミルの腹は座っているようでその覚悟にワトビアは感心した。


「俺もついて行きてえが陛下が許してくれるかなあ」

「どうでしょうね。内外に和平交渉を行うことを発表すれば、各国の間者や魔道士が和平交渉を行う未統治地帯に耳目を集めるでしょう。交渉内容を極秘にするつもりなら魔道士の協力は必要ですが、未統治地帯では私はある程度公開しても良いと思っているんです。その方がいらぬ疑いを払拭できるでしょう。ですから私としてはワトビア殿にはここファルスをしっかりと守っていただき、陛下との連絡を密にお願いしたいのです」

「ちぇっ、しょうがねえな、タミル殿が羨ましいぜ」

ワトビアはつまらなそうに苦笑した。

「陛下も同じことを言っておられましたよ。実際私も興奮しています。アンティノキアを初めて見ることができるのですから」

 

 執務室の息を詰めたような雰囲気がほっと緩んだ。サカキがノマダスの旅を語り終えたのだ。

「有難うございました、サカキ殿。皆、聞いたように信じ難い話だが事実だ。このノマダスと和平交渉に当たることになる。うまくいけば貿易についての話にもなるだろう。あらゆる点を考慮し、課題をまとめてほしい」

 タミルは官僚たちに向き直り、課題となりそうな要点を挙げていった。

「あの」

 一番前に座している官僚が手を挙げた。

「なんだコーネリア」

 タミルの副官コーネリアであった。彼は宰相の代理として王都に残ることが決まっており、その指示を聞かされた時は悔しさのあまり歯噛みしたのだった。

「クロム領の領主となった我が国の宮廷魔道士アールス殿ですが、彼は万が一裏切ったり、アンティノキアの魔力によって洗脳されて手先となるようなことはないのですか?」

 現実的な質問であった。未だ官僚たちには得体の知れないアンティノキアである。そしてルーポトと共にノマダスへ行ったアールスにも当然疑いの目が向けられる。実際領主になるという突然の権力を得、溺れてしまう例は枚挙にいとまがない。

「尤もだ。どうですかワトビア殿」

 タミルはアールスの上司であるワトビアに顔を向けた。


「そうさなあ…奴は短気な野郎だがなかなか根が真面目なやつだ。こっちの仕事もウダウダ言いながらしっかりこなしてたぜ、裏切るがどうかは知らねえが俺はあいつが好きだ」

 ワトビアは顎髭を撫でながら、答えともつかないような事をニヤニヤと言った。

「私は彼を評価している。彼には人間とアンティノキアの融和のため、陛下の命でクロム領の領主として全力を尽くすよう言い置いている。彼なら懸命に領主としてやっていると思う」

 共に長い旅をしたサカキが静かに言った。


「彼はサカキ将軍も言われたように、現在ノマダス王国クロム領主である。それ以上でも以下でもない。融和のためではあるが現在はノマダスの国益のために働いていると考えるべきだ。よって裏切るだとかという疑問は当たらない。彼は多分和平交渉の場に現れるだろうが、余計なことは考えず単純にノマダス王国の者と考えて事に当たってほしい」

 タミルは冷静に言い放った。最初から他国の存在と割り切って考えれば裏切るも洗脳も何もなかろうと言う極めて実際的な意見であった。

「それでいいんじゃねえかな、奴はノマダスの手先ってわけだ」

 ワトビアは他人事のようにガハハと呑気に笑った。


「皆には馬車馬のように働いてもらう事になる。シュマルハウトの今後の隆盛と平和がかかる大きな仕事だ。手抜かりがないように頼む」

 タミルは官僚たちに発破をかけ、室内に静かな気合いが漲った。

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