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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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90.推進

「となれば、ルーポトもノマダス王であることが確認され、和平の望みもこの親書からしかと受け取った。 こちらも本腰を入れてかからねばな」

 カール5世が言葉に力を込めて言うと、サカキは「おそれながら…」と姿勢を正した。

「何だ?」

「ルーポト様は人間を恐れているからこそ和平を結ぶとおっしゃっていました」

「恐れる?…人間を」

 サカキの言にカール5世は目を見開いた。

 サカキはルーポトが未来に人間の技術・戦力がアンティノキアをいつの日か凌駕しこちらに牙を剥くと言う懸念を説明した。

「なるほど、奴なら当然大砲や飛行絨毯のことは知っておるか」

 すっかり機密情報を知られていることにカール5世は苦笑する。

「人間がアンティノキアを超える…もしそんな事が起こるとしても遥か遠い未来だと思うが、彼らにとってはそう遠くもないと言うことなのか」

 あまりにも時間の尺度が違うためしっくりこないが、人間がアンティノキアの戦力を超えると言うのはおよそ想像しづらい事であった。何よりルーポトが人間を恐れると言うことが意外だった。計り知れない長い歴史を生きる彼には、人間の発展の速度は脅威に映るものだったのだろうか。

 サカキの話ではノマダスの先王も人間を恐れるが故、今のうちに滅してしまおうという考えだったらしい。人間にとっては厄災であったが、アンティノキアと言う種族の未来を憂いた為の行動だったと言えるのかもしれない。


 カール5世はさらに考えを進めた。

 ルーポトが恐れたのは人間の性質も関係しているのだろうか。ワトビアやサカキの報告によれば、アンティノキアと言う種族は良くも悪くもわかりやすい気性らしい。戦術さえも潔しとしない猪突猛進さはいっそ爽快な程である。人間と交わりの深いルーポトこそ例外なのだろう。

 対して人間である。

 カール5世は王として様々な人間を見る機会があった。素晴らしい人々がいるのはさる事ながら、人間の闇、憎悪や残虐性というものは底知れないものがある。己自身も王として権力を掴むまでにそのような者を嫌と言うほど見ている。


 もしもこのまま警戒と不信が続いたままの状態で、人間がアンティノキアを超えたと分かれば、人間の行動は予測がつかない。しかし、平和な結末に至るとはカール5世には思えなかった。残虐の限りを尽くすことも考えられる。長い寿命の秘密を解明する為アンティノキアを狩り、生体実験をする国もあるかも知れない。人間同士でさえ国が違えば極めて残虐になれることは歴史が証明している。その人間の歴史を長い寿命で見つめてきたアンティノキアならば、今のうちに滅してしまおうと言う考えが出てもおかしくは無い。


 実際現在のルーポトならそれがすぐにでも可能なのだ。彼は人間の戦い方もできる極めて危険な存在である。しかも防ぐ手立てがなく、喉元に刃を突きつけられているにも等しい。

 にもかかわらずルーポトは和平を選択したのだ。その僥倖には感謝するしかない。

「よくわかった。すまんがタミルを呼んできてくれ。奴もお主の報告を待ち侘びているだろう」


 タミルはサカキからの報告を驚きを持って聞いていた。サカキの絵を一枚一枚食い入るように眺めている。

 バラドラやポポロの絵姿に「本当にこれほどの大きさがあるのか…」と呆然とした。巨大であることは昔から語り継がれており、砦からの報告も聞いてはいたものの、アールスの隣に立つバラドラの対比に驚きを隠せなかった。そして馬鹿げた大きさの魔界の大門やノマダス王宮、奇妙な地形の神の器は現実とは思えなかった。

 目を白黒させるタミルにサカキはグリエラとイプロスの墓の件は伏せ、説明を終えた。


 ルーポトからの親書には、和平交渉はお互いの国を離れ、未統治地帯に施設を設置し行うこと、可能なら貿易・通貨の交渉も行いたい。和平交渉の前にノマダスは他国との和平締結にやぶさかでは無いことを他国に通達したい、などのいくつかの提案が記されていた。

「余は基本異存はないと思うが、どうだ、タミル」

 タミルは親書を何度も見返した。

「良いかと思います。私も交渉の前に内外に大々的に発表した方が、痛くもない腹を探られることもなくなると思います」

「よし、では交渉にあたる官僚の人選を至急頼むぞ。余もノマダスの提案に応じる親書を認める」

 カール5世は満足そうに頷いた。

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