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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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85.仮説

「サカキ殿とアールスはどうしていましょうな」

 王の執務室のソファに腰を下ろし、レイムルは窓の外を見た。

 現在のところ、未統治地帯を南下し、ナティアへの帰還途上にあるはずだった。だが、シュマルハウト王国に届いている情報は、ノマダス王都ファマトゥを発った時点で途絶えており、それ以降の連絡は来ていない。


 カール5世も報告を心待ちにしている。サカキにはなかなか常識外れの指示を与えている。無論生還する事が至上命令であるため、くれぐれも無理をするなとは言い置いているが、問題はナティアに戻るのがサカキとアールスが二人なのか、サカキ単独なのかという事である。

 サカキだけが戻れば、アールスという宮廷魔道士の若者には相当の苦労を強いることになる。この件については、あらかじめワトビアにも伝えてあるが「ひどいことをなさいますな!」と大笑いされた。ワトビアも大概な奴である。

 カール5世がそんな事を考えているとレイムルが意を決したように、顔を向けた。


「陛下、私はずっと考えておったのです。ようやく仮説のようなものを思いつきました」

「ほう、何かな」

「ルーポト殿がいかにして王となったのか、その経緯についてです」

 そう言われてカール5世は思い出した。レイムルはルーポトに英雄たちに先代の魔王を倒された後、どのように王になったのかを尋ねたが、そこは宿題とはぐらかされていたのだった。レイムルなりに考えがまとまったのだろう。

「聞かせてもらおう」

 カール5世は小姓に茶を頼み、ゆったりと腰掛けた。

「ルーポト殿が仰っていた『強ければ誰でもノマダス王になれる』。この『誰でも』に我々人間も含まれるのではないかと考えたのです」

「…ほう」

 カール5世の目がわずかに細められる。


「結論を言えば魔王を倒したイプロス様がノマダス王ルーポトになったのではないか、そう愚考しております」

 しばし沈黙が流れた。

「…だが、ノマダスは鎖国したはずでは?」

「はい、しかしイプロス様が一度シュマルハウトに凱旋した所にノマダスが無断で鎖国してしまった為、イプロス様はノマダス王としての政策を実行しようとノマダスに再び向かわれたのです」

 それがイプロス様の出奔の原因です、とレイムルは強調した。

「どのような政策を?」

「終戦と降伏を早急に進めようとしたのではないでしょうか?降伏などもってのほかと考えた現在のルーポト殿がイプロス殿を倒し、ノマダス王となったのでは無いでしょうか。さすがにイプロス様お一人ではルーポト殿に勝てなかったのです」

「…ふむ。ルーポトも和平は望んでいたが、降伏とまでは考えていなかった。そして、時期尚早と判断し、イプロスの行動を制した_そういうことか、大胆な仮説だな」


「あくまでも妄想の域を出ないものですが…サカキ殿が戻れば新しい情報も入るでしょう」

 目を輝かせるレイムルに、カール5世は苦笑した。

「ルーポトが勇者イプロスを倒したとなると、国民にはとても知らせられんな。和平交渉どころの騒ぎではなくなる」



「ワトビア、ワトビア」

 王城の回廊。庭園を横切るように伸びる廊下を歩いていたワトビアは、背後から呼び止められた。

「何してんですか、姫様」

 振り返るとアンナが柱に身を隠すようにしながらワトビアを手招いている。その後ろには忠実な侍女マリアナがきちんと控えている。

「マリアナとも話していたのだけれど」

「はあ」

「アールスは何かやらかしたの」

 アンナは扇で口元を覆い、声をひそめた。

「は?」

 突然の質問にワトビアは首を傾げた。

「何か最近見ないわねって言ってたの。私この前の結界工事でだいたいの宮廷魔道士の顔を覚えたの。でもアールスだけ、最近まったく見かけない気がして。何かあった?」

「ははあ」

 ワトビアが顎を撫でた。一体どうなっていることやら。アールスの顔を思い浮かべる。ナティアに帰ってくるのかあるいは…。


「ナティアに出張に行っています」

「ナティア。遠いわね。北の辺境じゃない」

 アンナが目を丸くする。

「いわば武者修行です。姫様が宮廷魔道士の負担を減らしてくださったおかげで、実戦の訓練を積む余地ができたのです。今頃ナティアで兵士たちと訓練したり、魔獣を倒したりしてますよ」

 全くの嘘ではないため、ワトビアの言は立て板に水のようであった。

「魔獣!大丈夫なの?」

 アンナは息を呑んだ。

「騎士みたいにガタイが良くはないですが、ああ見えて宮廷魔道士はかなり強いんですよ」


「兄様がサカキ様もいないって言ってたけど?ルーポト様も呼んでも来てくれなくなったわ。何か変じゃない?」

 兄様とはアドレー様だろう、とワトビアは考えた。サカキから剣の手解きを受けることもあるアドレーである。長い不在には当然気づくはずだ。

「サカキ殿もどこかに出張と聞きましたが。ルーポト、あいつは神出鬼没ですからなあ、こればかりは陛下にお尋ねになるのがよろしいかと」

 ワトビアはカール5世に委ねることにした。特に隠す理由もなかったが、カール5世に無断で話すわけにはいかなかった。

「父上かあ…教えてくれるかしら」

 アンナは不安そうにつぶやいた。

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