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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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79.落下

「なんだ貴様、まさか魔力を持っていないのか?」

ナイガは呆れ果てて言った。


 サカキとアールスが闘技場内で待機していると、示し合わせた時間を大幅に遅れ、勿体ぶった様子でナイガが入場した。向かい合ったところで、ナイガが中空から羊皮紙を出現させ、指先から魔力を出しながら名前を記し、サカキたちにぞんざいに渡した。

 この手続きはアールスがルーポトとパルグアンが戦う際に見たものだ。お互いが自分を示す魔素で名前を書き、それを過去から現在まで全ての戦いを管理する「役所」へ送る。「役所」は強さを至上とするノマダスにおいては極めて重要な組織であり、不正や外部から圧力を防ぐため、役所だけは政府とは別の組織として動いている。その所在地すら秘匿され、ノマダス王でさえ実態を知らない不可侵の領域なのだ。そこに署名された羊皮紙は送られ、処理される、とポポロがアールスに説明してくれた。

 その後どう処理されるのかアールスは聞いたが、ポポロはこれで万事うまくいくそうである。

 サカキが「私は魔力がないがどうすれば」と言うとポポロは虚をつかれた顔をし、「そういえば魔力の無い者が戦うのはノマダス始まって以来かもね」と考え込んだが、とりあえずペンで書いてみてよ。役所がなんとかするわよ、と適当に答えた。

 サカキが頷き、背嚢から取り出したペンで羊皮紙に署名した際に、ナイガの嘲笑が割って入った。

「愚かなやつだ、どうやって勝つつもりだ」

「…」

嘲るナイガを無視し、羊皮紙をアールスに渡した。アールスはサラサラと署名し、宙に投げると羊皮紙はかき消えた。アールスは即座に印を結び詠唱を始めた。サカキはゆっくりと振り向きナイガと対峙した。


 ナイガが指を鳴らした。

「さて…なぶり殺しにし…」

 サカキが地面を蹴り走り出していた。一瞬のうちにナイガの懐に飛び込み、鞘を払うと同時に左足に斬りつけた。

「あっ!」

 ナイガは飛びのいたが浅く斬られていた。サカキは間髪入れず踏み込み剣を振るい続けた。ナイガは懸命に避け、何度か浅手を受けたもののようやく距離をとり、翼を広げ上空に飛び上がった。邪悪な猪が翼を使い羽ばたいている様子は、チグハグであるが故にかえって禍々しく映った。ナイガの目は怒りに血走っていた。

「クソが!クソが!まだ喋ってただろうが!卑怯者め」

「勝負はもう始まっている」

 サカキがナイガの子供じみた文句を一蹴した。

「魔力の無いお前は後でゆっくり殺してやる。まずは木端魔道士からだ」

 ナイガがアールスに目を転じ巨大な火球を出現させ、投げつけた。

「アールス君!」

 叫ぶサカキに目顔でうなづき防御結界を張った。火球がアールスを包み込み、背後に跳ねた。そのまま闘技場の壁にぶつかり轟音と共に爆発した。

「どうする、あとは貴様だけだ」

 ナイガはアールスを始末したことを確信していた。そして上空から嗜虐的な笑みを浮かべサカキを見下ろした。

 アールスのいたあたりは黒煙が渦巻いている。


「まだ終わってねえよ。薄汚いクソ猪が」

 ほどなく煙が晴れた。アールスはしっかりと立っている。

「なんだと…」

 ナイガがあんぐりと口を開けた。

「てめえこの程度か。サカキ様の攻撃にビビり散らして空へ逃げた腰抜けめ。ゴミが。殺すぞ」

 アールスの啖呵にサカキが目を丸くしてアールスを見た。

「アールス君。大丈夫か?」

「余裕です。大した攻撃ではありませんでした。そよ風のようで逆に驚いています」

 アールスは涼しい表情で、ナイガに対し嘲るような笑顔をむけ挑発した。

(ルーポトに教わった防御結界がここで役に立った)

 言葉と裏腹にアールスは脂汗が体を伝っていた。恐怖のため鼓動が早く、おさまる様子がなかった。

 射線に対し、できるだけ平行に結界を張り攻撃を弾く、というパルグアン戦前にルーポトから教えられた方法であった。実際ナイガの火球を見た時は肝が冷えた。この方法を知らなければ死んでいたに違いない。実際ギリギリのところであり腕は相当な火傷を負っていた。


 ナイガは歯噛みしながら翼をバタバタと動かし滞空している。

 アールスを睨み下ろしながらゆっくりと口を開いた。

「…人間風情が俺の火球を防ぎお゛っっ!」

 突如ナイガの声が途切れた。下からの衝撃があり確認すると、股の間から小刀が生えている。サカキが下から放ったのだ。ナイガは痛みに悶絶した。

「がああっ!許さん!もう殺す、殺してやる!」

 サカキとアールスに虚仮にされナイガは怒り狂っていた。怒りのあまり顔の毛を引きちぎり空中で暴れていた。そして頭上に先ほどよりも何倍も大きな火球を出現させた。アールスの頬を強い魔力がビリビリと伝わってくる。この火球は、アールスの防御結界ではでは防げる規模ではないことが即座にわかった。

「サカキ様、こちらへ」

 しかしアールスは自分の背後に来るようサカキを促し、火球の前に立ちはだかった。

「準備は」

「出来ています」

 背後に控えたサカキに、アールスは短く答えた。

「殺す!殺す!」

 怒りに我を忘れ、怒りの衝動そのままにナイガは火球を投げつけた。闘技場内が昼間のように光るほどの火球であった。耐えきれぬほどの熱気が二人を襲った。

 アールスが腕の痛みを堪え印を結び杖を構えると、亜空間が火球の目の前に開いた。


 数瞬後、黒焦げになったナイガが地面に落下した。

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