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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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7.王と魔王

「お初にお目にかかる。私はルーポト。挨拶に来た。誰にも危害は加えていないので安心してほしい」 

 ルーポトは王を真っ直ぐ見ながら言った。

「ルーポト…そなたはアンティノキアなのか?」

「ああ」

「にわかには信じられんな、『ルーポト』の名はアンティノキアの王が受け継ぐ名のはずだ。ならお主は魔王ということになる」

 カール5世は鋭い眼光でルーポトを見た。

「よく知っている。まあ王なら当然か」

 ルーポトは誰もが射すくめられる王の視線を涼しげに受け止めた。

「そなたがルーポト、魔王だと証明できるのか」

「ノマダスに来てもらうしかないだろうな。まあ王直々にというのは無理だろうが」

「ハハハ、確かにな。魅力的な話だが、シュマルハウト王がノマダスに行くなど誰もがその無謀を止めるだろう。殺されに行くようなものだとな」

 カール5世は一笑に付したが、その目は興味深げなものに変わっていた。


 そのとき強く扉が叩かれ小姓が転がるように執務室に入ってきた。

「陛下!」

 小姓は目を見開き執務室を見回した。

 そして王以外誰もいない事を確認すると一気に顔色が変わり膝をついた。

「ご…ご無礼ながらお一人の筈の陛下のお声が聞こえた気がしましたので、もしや侵入者かと思い許可も得ず乱入しました。申し訳ございません。この処分はいかようにもお受けいたします」

 小姓は気の毒な程に縮こまっている。身分の高い貴族の騎士見習いであろう、まだ幼さの垣間見える少年は勘違いで王の執務室に立ち入ったという失態に震え上がっていた。

 カール5世からは小姓のすぐ横で静かに立っているルーポトが見える。だが小姓はルーポトに全く気付いていない。

「…構わぬ。今後もその調子で努めよ。さがってよい」

「もったいなきお言葉…」

 それ以上は何も言えない様子で小姓は深く頭を下げ退出した。

「良い騎士になりそうだ」

 ルーポトはうっすらと微笑を浮かべた。

「もう声は聞こえないようにしたので安心して話すといい」

「誰にも危害を加えんと言うのは真のようだな」

 カール5世の口調は和らいだ。臣下の誰も殺されてないらしい事に内心胸を撫で下ろしていた。そしてとりあえず全て信じる事はできなかったが、宮廷魔道士団による侵入者を防ぐ結界、多くの近衛兵が厳重に固める王の執務室にたどり着くことが可能な実力、それを踏まえその男がルーポト、またはそれに匹敵する地位の者であると考える事にした。


「さて」

 居ずまいを正しカール5世はルーポトに向き直った。

「改めて目的を聞こうか」

「和平を考えている」

「…」

 カール5世はあごひげを撫でながらルーポトをしばらく見つめていたが、やがて口を開いた。

「ノマダスの南端、クロム峡谷にシュマルハウトの調査団を派遣している。知っているな」

「ああ」

「そこからの報告は届いている『ノマダスは和平を望んでいる』と」

「そうだ」

「しかし200年前といえども『厄災の時代』の惨劇は我々に刻み込まれている。アンティノキアが和平を望むとは信じがたい、誰もがそう言うだろう」

「であろうな。なので直接言葉を交わしに来た。とはいえ非礼は承知だ、急に結論も出せまい。返事は気長に待つ。ただ200年静かにしていたと言うことは考慮して欲しい」

 ルーポトは振り返り扉へと歩き出した。長いローブがふわりとたなびいた。

「英明の誉れ高いカール5世と話すのはやぶさかではない。雑談でも構わんので、私の名を呼ぶがいい。いつでも参上しよう」

 ルーポトは静かに部屋を出て行った。


「そんなことが…」

10年前にこの国の中枢を脅かす事態が起きていたのだ。さすがにアールスは驚きを隠せなかった。

「陛下は即刻宰相と前の魔道士長ギトー様そしてサカキ将軍に使いを出しこの事を伝え、その日の午後すぐに執務室で会議となった」

 王の元へ許しも無い、それも魔王を名乗る男が突然現れたのだ。政治上、警備上に置いても大問題である。一刻も早く対処せねばならない。しかしどうすれば、と皆頭を抱えたらしい。

 ワトビアがふとアールスを見やる。

「お前はギトー様を知ってたかな?」

「一度お会いというか見た事があるよ」

 アールスの印象では白い豊かな白ひげをたくわえた枯れ木のような老人だった。

「あのじじいはつかみ所の無い飄々としたご仁でな、悩む宰相・将軍を尻目にこう言ったそうだ。『呼べば来ると言ったのなら呼んでみればどうですかな』と」

 ワトビアは茶器に茶を注ぎ足した。窓の外から朝の始まりを告げる鐘の音が聞こえてきた。アールスは取る物も取り敢えず始業前にここへ来た事を思い出した。

「で、魔王を呼んだのか?」

「ギトー様にいわれ、陛下も試しにやってみるかと苦笑されながら呼ばれた『ルーポト来てくれ』とな、じゃあ奴はふざけた事に扉を開けて入ってきたそうだ」

「…」

 確かにふざけた話である。こんなに簡単に王の執務室を出入りされたらたまったものでは無い。

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