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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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78.挑戦

「出立されますか」

 翌朝応接室にやって来たナイガは、サカキとアールスに一瞥もくれず、ポポロに語りかけた。

「お世話になりました。ナイガ殿。おかげで快適に過ごすことが出来ました」

 サカキが進み出て挨拶したが、ナイガは見向きもせず、ポポロに目を向けている。

 このようになることは想定内であった。昨夜戦うことを決めた時に、どのように話を進め2対1で対決することを認めさせるか、3人で打ち合わせていたのだ。あとは思い描いた台本通りに進めていけばいい。

 サカキが立ち上がり、力強くナイガを指さした。


「ぶれーな奴だ。クロムりょーしゅナイガ。ノマダス王のおぼえもわるく、りょーみんからもいみきらわれているあんぐめー。きさまからクロムりょーしゅのちいをいただくぞー、ワレワレはおまえにチョウセンするぞー」

 耳を疑うほどの棒読みであった。アールスは目を見開き、サカキを見た。どのように話を進めるかは散々検討したが、予行演習はさすがにしていない。これほど下手とは完全に想定外であった。

「は?何を言ってやがる」

「おまえにチョウセンするといったのだー」

 サカキの物言いに、ナイガは心底嘲るような視線を投げた。

「バカを抜かすな、この俺が弱い人間の相手などできるか。アホらしい、ポポロ殿、使者といえども不愉快だ、こ奴らを即刻領の外に出してくだされ」

 手をひらひらと動かし、退出を促した。

 いきなりポポロは腕を振り上げ、テーブルに拳を叩きつけた。テーブルが木っ端微塵に砕けた。

「ポポロ殿…何を…」

 驚いたナイガが視線を泳がせた。ゆっくりと立ち上がったポポロはサカキとアールスを睨み下ろした。


「しょうたいをあらわしたなヒキョウなニンゲンめー、わがへーかのワヘイのおもいをリヨーし、ノマダスのこくどをきりとりにくるのがコンタンであったかー」

 眩暈がするほどの棒読みであった。ポポロがテーブルを叩き壊した時は、サカキの失態を挽回できたと思っていたアールスだったが、これはダメかもしれなかった。ポポロのセリフは続いた。

「かくなるうえはーナイガどの、こやつらをまとめてシマツしてしまうがよい、チョーセンしてきたのはおまえたちだぞ。ナイガどの、チョーセンをうけよ、セーセードードー、ゴーホーテキにしまつできるぞ。このポポロがみとどけよー」

「…」

 不気味な沈黙が流れた。さすがにナイガは不自然さに気づいたのか、それともポポロの言うことを検討しているのか。しかしナイガが拳を合わせぼきぼきと指を鳴らし始めた。

「いいだろう、人間を倒せると言うのは願ってもない。良いのですなポポロ殿、和平の使者だが」

「もちろんだ。チョーセンはことわることができないものだ、きさまらこそほんとうにやるのだな」

「そうだ」

 ポポロの問いかけにサカキは簡潔に答えた。

「ふん、元々和平など気に食わんと思っていたのだ。きさまらの死体を国へ送りつけてやりたいぜ」

 ナイガの下卑た物言いに、こいつにはなんの情もかけず戦えるな、とアールスは思った。


「うまくいったわね」

 宿屋に戻りポポロがしたり顔で言った。サカキも何か成し遂げたような顔をしている。アールスにはうまく行ったのが奇跡のように思える。

対戦は夕刻に決まり、町の外れにある闘技場で行われることになった。

 アールスの心は複雑だった。巻き込まれる形で領主の座を賭けた決闘に協力することとなった。覚悟は決めたものの、できれば戦わずに済ませたかったのも本音だ。しかしよく戦いに持ち込めたものだ、と少し安堵の気持ちもあった。アールスにも、ふつふつと自分の力を試したいという思いがこみ上げていたのだ。ナティアで得た経験や、ノマダスに来るまでに幾多の魔獣を倒し自信を深めていた。何よりルーポトの戦闘なら当時のグリエラと同等、という評価がアールス自身に刺激を与えていた。そしてルーポトやポポロが特に止める様子がないというのも、アールスを若干楽天的にさせていた。無論恐怖もあるのだが、それ以上に試してみたいという思いが勝っていた。

 サカキとアールスは時間の許す限り、戦術の確認や想定を確認しあった。



 夕刻となり、一行は闘技場を目指していた。

ナイガが領民に触れ回ったのか、あるいは噂が広まったのか、通りには人間を見ようという群衆が集まっていた。

 ポポロは一目見て強いとわかるのだろう、群衆から畏怖と尊敬の眼差しが伺えた。

 我々に対しては、王都に比べてアンティノキアの民の視線が厳しい、とアールスは感じていた。多くの人々が、人間との戦争の時代を経験しているはずだ。人間の狡猾さや卑怯なやり口というものを、身に染みるほど聞かされているのかもしれない。

 そしてクロム領主、ナイガにも暗い視線が向けられていた。

 彼の暗愚と横暴に嫌気が差している者がほとんどだが、それでも人間が後任となることへの不安は大きい。どちらが勝っても良い結果が得られない_そんな諦観が、町全体に不気味な静けさをもたらしていた。

 とはいえ、実際は我々が勝てば、実務はアンティノキアに明るく信頼のおける人物が起用され、サカキは名ばかりの領主として自分と帰国するはずだ、とアールスは考えていた。

 

 クロム領の町は険しい山に囲まれ、ファマトゥ同様、建物が上下に入り乱れた立体的な町である。

「あれが闘技場よ」

 ポポロが崖の上を指さした。円形闘技場だ。丸い側面が崖からのぞいている。戦いは神に捧げるものであるため、基本的には高い場所に作られるとポポロは語った。

「人間を応援するなんて変な感じだけど頑張ってね。外で待っているわ」

 ポポロは大きく身をかがめ声を潜めて言った。

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