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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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76.南へ

「サカキ様…これから一体どこへ行くんですか?」


 歓迎式典から一夜開けた朝、サカキとアールスは王都ファマトゥを発ち、南へと向かっていた。式典が終わった夜、部屋で休んでいると不意にサカキが訪れ、日の出と共に出かける為身支度せよと一方的に告げられたのだった。

 翌朝、二人は見送る者もないまま王宮を出、今は森の中の道を歩いている。帰国するなら、その前に一度ルーポトに帰国の挨拶の一つもある筈だと考えていたので、サカキの背中を見ながらアールスは困惑していた。太陽が中天に差しかかり、昼食の休憩を取ったところでようやくアールスは疑問を口にしたのだった。


「ノマダスのクロム領という場所に向かっている」

 パンに挟んだ干し肉を齧りながらサカキは答えた。昨日の式典の際にクロム領というのは聞いたような気もするが、いずれにせよアールスの困惑をおさめる助けにはならなかった。

「ノマダスの南端にある険しい山間の領地らしい」

「はあ」

 南はシュマルハウト王国の方向でもあるが、アールスはすでに素直に帰国できるとは思っていなかった。

「このまま帰国するということですか。しかし親書はまだ…」

 淡い望みをかけてアールスは尋ねたが、サカキは答えず、北の空を凝視していた。まもなく風を切る羽ばたきの音が、森を震わせるように響いてきた。それと共に強烈な魔力を背中に感じた。


 ポポロであった。こちらに向かって手を振り、しなやかな姿勢で空中で身を捻らせ、ふわりと着陸した。サカキが立ち上がり会釈する。

「あなたの魔素を追ってきたのよ」

 ポポロがアールスに笑いかけた。

「ルーポト様からの親書は昨夜受け取っている。別れの挨拶は済ませてきた」

「え」

 サカキが唐突に言い、アールスの困惑はさらに深まった。

「では帰国ですか…」

 アールス自身は別れの挨拶せず出てきたので何となくけじめのつかない気分である。

「サカキ様」

 アールスの言葉にかぶさるようにポポロがサカキを見た。

「陛下から話を伺いました。私も笑っちゃった。人間ってやっぱり恐ろしいわね。お二人の道案内を命じられたわ」

「ありがたい。感謝いたします」

「…」

 アールスの困惑は頂点となり、答えを求めサカキとポポロに目を泳がせた。ポポロがくすくすと笑った。

「あなたは偉い人に振り回される運命なのかしら」

 同情するような目をアールスに向けた。

「ポポロ殿、まだ実行するとは決まっておりません」

 サカキが苦笑して首を振った。

「サカキ様がお考えになったの?」

「私がカール5世陛下に提案し、あくまでも安全を最優先するという条件で了承を得ておりました。これについては真正面からお聞きした方が良かろうと判断し、昨夜ルーポト様に和平に支障はないかお伺いしたのです」

「あまりのことに陛下も笑っちゃったのね」

「お待ちください」

 アールスはようやく二人の話を押しとどめた。

「説明を…してください」

「あら、怖いわ」

 ポポロがおどけて肩をすくめた。


「混乱させてすまなかった。アールス君、説明しよう」

「私はルーポト様に尋ねた。『民の評判が悪く、我々でも倒せそうな領主はおりませんか』と」

「え」

「『和平に反対の方なら尚良いです』とも付け加えた」

「ええ…」

「ルーポト様はシュマルハウト王国の重要な場所に我が物顔で侵入しておられる。シュマルハウトとしてもこのままでは面子が立たない、可能ならご検討いただきたい、和平の手助けにもなるでしょう、と持ちかけた」

「…それを直接ノマダス王に仰ったのですか」

「アンティノキアの方々には包み隠さない方が良いと考えた」

「いいと思うわ」

 ポポロがくすくす笑って受けあった。

 ルーポトがバラドラに相談した結果、クロム領主ナイガの名前が上がった。ナイガは粗暴な男という評判で領民の評判も極めて悪い。領民に重税を課し、半ば領土を私物化しているらしい。サカキの注文にはうってつけの人物であった。ナイガは人間との終戦が決まった時、自ら好んで戦争に参加していたため、大いに腹を立てたようである。

「ノマダスの南端にありクロム峡谷には貴国が我が国を見張る監視砦もある。ちょうど良いではないかとルーポト様はおっしゃられた」


 クロム峡谷の監視砦は戦後20年を経て設置され、シュマルハウトのできる限りの魔道や迷彩で偽装されていたが、瞬時にルーポトが発見していた。ルーポトは更なる偽装を施しクロム領のアンティノキアにも見つからないようにわざわざ手を加えたそうだ。その後バラドラが頃合いを見て監視砦を極秘で訪ねた。それが50年ほど前で、砦は大混乱になったがそれから細々とした交流が始まった。


「可能ならクロム領主ナイガを倒し、領主となる権利を得ようと思っている。アールス君。君の協力も必要だ」

 サカキが熱い視線を向けアールスは昼食が喉を通らなくなった。

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