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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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75.式典

「人間は凄まじい速度で進歩している。いつの日か人間がアンティノキアを凌駕する日が来る」

 本当にそんな日が来るのだろうか、アールスは眉に唾をつける気分だ。

「その時にいがみ合っている状態では、アンティノキアは滅ぼされるだろう。そのために和平に舵を切ったのだ」


「先王はそのことを朧げながらに察知していた。だからこそ英雄たちを呼び戦おうという不名誉を自ら被ってまで、人間たちの士気を下げようと意図したのだ。ポポロは驚いていたな」

 ルーポトはポポロを見上げた。

「そうです。当時はノマダス王ともあろう方がなぜ弱い人間と戦うような事をなさるのか理解できませんでした」

 結果は違ったがアンティノキアにとって確実に勝てる相手に戦いを促すなど矜持が許さない事なのだろう。アンティノキアの性質を何度も聞いたアールスにも理解できた。

「まあそう言うな、先王はアンティノキアの未来を考えて行った事だ。英名な王だと思う。それゆえパルグアンも忠誠を誓っていたのだろう」

「は」

「超えられる事を恐れてその前に滅してしまおうなど、人間にとってはたまったものではないがな」

 グリエラの姿でルーポトは悪魔のように笑った。



「驚いたな」

 客間へ戻り、サカキは勢いよくソファに腰を下ろした。

 アールスは無言で頷いた。彼自身も驚くべき情報の多さに混乱していた。ルーポトやポポロの話が事実なら「英雄の旅」で書かれている事とまるで違う。

「陛下もさぞ驚くだろう、これだけの情報だ。使者の仕事としては十分だ。そしてルーポト様も自称ではなくまさしくノマダス国王であるとわかった、どうやら和平も本気で考えておられるようだ」

 サカキは自分の両手を長め、苦笑しながら続けた。

「そして君や私がグリエラ様やナイルズ様に匹敵するとは。信じ難いが」

 本当に伝説の人物に届いているのなら誇らしくもあるが、多少の失望感も否めなかった。こんな物なのかという思いが強い。ワトビアも自分も全くルーポトの相手にならなかったのだ。グリエラがアンティノキアであったからこそ、人間勢が魔王を倒すという大逆転が起こったのであって、人間だけであったなら、当時の不世出の天才であってもあっさりと魔王に蹴散らされていたという事だ。

「しかし私やワトビアはルーポト様に全く歯が立ちませんでした。いや、相手にもされていなかった」

「多分ノマダスの高位の方々は極端に強いのだ。彼らが人間に負けることはなさそうだが、その他のアンティノキアはそこまでではないのかもしれん、だからこそルーポト様は未来のことも考えて和平を考えたのだろう。国は高位の者だけでは成り立たぬ」


 当時の英雄一行も、アンティノキアを倒しながら魔界の大門までは来ることができたのだ。現在なら戦況が変わってもおかしくない。自分がグリエラに匹敵する強さだというなら、宮廷魔道士団だけでもグリエラの実力を持つものが30人以上いることになる。

「しかし、今のノマダス王は人間の考え方もできる方だ、そう単純な話なかろうな」

 難しいことは陛下やタミル殿に考えていただけば良い、とサカキは笑ってカップを傾けたが、不意に怪訝な表情を見せ、カップを置いた。

「どうかしましたか?」

 アールスが聞くとサカキは顎を撫でながら空を見つめた。

「人間の国ではグリエラ様は戦死したというのが常識だ。私も当然そう思っていた。だが凱旋したイプロス様たちはグリエラ様がノマダス王になったことを当時の国には伝えなかったのだろうか…これだけ重大な情報だ。それとも伝えたが、国が隠したのか」

「グリエラ様は戦死した事にしてくれという頼みを聞いたのではないのですか」

「そうかもしれない。でも私なら迷うな…」

 眉間に皺を寄せ、サカキは腕を組んだ。



 後日ノマダス王宮にて、王の帰還とシュマルハウトの使者を歓迎する式典が行われた。

 ノマダスの国中から地方を統べる領主や貴族たちが集まっている。式典後ホールで立食パーティが開かれた。ほとんどが見上げるばかりのアンティノキアたちで、ルーポトとの挨拶に並んでいる。バラドラやパルグアン、ポポロも参加している。

 ポポロはいつもとは違う華やかな騎士服を身にまとい、バラドラの傍らに控えていた。サカキはさすがに絵の道具を持ってはいないので、パーティの様子を食い入るように見ていた。サカキやアールスも声を貴族たちから多く声をかけられた。その多くは表面的な好意を装った挨拶ではあったが、中には儀礼的に挨拶するだけならまだしも敵意に満ちた目を向ける者もいた。王都では喝采を受けた人間との和平であったが、まだまだ一枚岩ではないことがわかった。サカキはそんな相手も如才なく柔和な笑みで対処している。しかしアールスにはなかなか刺激の強い場であった。なにしろ高位のアンティノキアたちが集まっているため強い魔力がホールに充満している。アールスは魔力にのぼせるような気分であった。


「もうすぐお別れになるのかしら?寂しくなるわね」

 一息つこうとバルコニーに出たアールスにポポロが声を掛けた。彼女はイプロスの墓で出会った後、サカキとアールスの世話をいろいろとしてくれていた。

「そうですね。ルーポト様から親書を受け取れば、それを届けに帰国するはずです」

 カール5世の親書はサカキが持っていた。ノマダスに着いてから正式にルーポトに手渡されている。シュマルハウトを出てから既に4ヶ月近くが経っている。これほど長い旅になるとは全く予想外であった。気楽な独り身とはいえ王都ファルスに早く戻りたいと考えていた。幸いルーポトは和平に本気で取り組むようであり、速やかに親書を書いてくれるだろう。そうなれば使者の役目としていち早く帰国の途に着くはずである。


 アールスは自分がノマダスに来ることになった顛末を話した。ポポロは笑って聞いてくれた。

「偉い人たちに振り回されているわね」

「元はと言えばノマダス王のせいなんですよ」

「あはは、陛下に文句を言うといいわ」

 ポポロは屈託なく笑った。

「貴族の方々と挨拶をしましたが、友好的な方ばかりではありませんでした」

「まあね。人間は卑怯だという思いはまだ根強いわ」

「実際卑怯な人間は多いので真っ向から否定できません。天使のようないい人間もいれば、悪魔でも目を背けるような人間もいます」

「…あなた正直ね。好きよそういうの」

「からかわないでください」


 ふとホールに目を向けると、ルーポトとサカキが話をしているのが見えた。

 この使者の旅で驚いたことは、サカキの人物であった。物静かで怖い武人と言うのがシュマルハウトでの評価であり、アールスもそのように思っていたが、アールスのような下の身分の者にも重々しい口調ではあるが意外な程よく喋り、気さくな様子を見せた。このような社交の場でもさすがは将軍、と言うべきかうまく交流をこなしているようである。見ているとサカキが密談でもするようにルーポトに身を寄せ、何かを言うとルーポトは大きく笑い頷いた。その様子は列席者たちが振り返るほどで、会場がざわめいた。

「あら珍しい、あんなに声を上げて笑われるなんて」

 ポポロが興味深げに目を向けた。

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