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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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73.英雄

 式典の翌日、グリエラを除く一行はシュマルハウトへの帰路についた。

 一行は以前通った隧道を通り大門へと徒歩で向かっている。大門までグリエラが見送る途中である。その姿は馴染みのある女性の姿である。


「当面鎖国されるおつもりですか」

 パルがグリエラに聞いた。

「ええ。いきなり和平と言ってもお互い無理だわ。人間の方は特にね。何世代もかかると思う。直接戦争を知る人がすっかりいなくなって、数世代経つまで接触を断つつもり。アンティノキアとの寿命の差を利用するようで悪いけど、人間にとって完全に「歴史」になるまで待つわ。200〜300年くらいかな」

 確かに200年を超える時の経過は人間にとってなかなか実感できるものではない。200年前といえばシュマルハウトも国と言えるようなものはなく、各地に割拠する勢力が血で血を洗い、覇を競っていた。それだけの時を経れば現在恐怖そのものであるアンティノキアも「かつて恐れられた存在」となるのだろうか。結果はグリエラにしかわからないことだ。


「じゃあね。今までありがとう。楽しかったわ、気をつけてね」

 大門を背にグリエラは笑顔を見せた。

「もう会うことはないと思うと名残惜しいですが…グリエラも壮健で」

「俺も楽しかったぜ」

 パルとナイルズが言い、グリエラと固く握手を交わした。

「イプロス。いいのですか」

 パルは少し離れた場所で腕を組み、そっぽを向いたイプロスに声をかけた。

「俺はいいんだよ」

 イプロスはそう言うと、不意に振り向き険しい顔でグリエラに歩み寄った。

「…グリエラ、一度は恥を忍んで国に帰るが、俺はまたここにくるぞ!」

「え」

「お前はずっと素性を隠してきたアンティノキアだ。いきなり和平なんて言っても信用できん。俺は必ず見張りにくるからな。お前が和平をちゃんとやる気があるのかどうか」

 イプロスはグリエラを指差し宣言した。

「来なくていいわよ、鬱陶しいし」

 グリエラは心底迷惑そうに首を振った。

「うるせえ、俺の勝手だ。俺が来た時迷わないように手配しておけ」

捨て台詞を残し、イプロスは再び大股で離れた場所に移動した。

 3人は顔を見合わせ苦笑した。

「…では」

「じゃあな」

「ええ、元気でね」


「行きましょう」

 パルはイプロスを促した。イプロスは振り返ることなく歩き出す。

 グリエラは3人の姿が見えなくなった後もしばらく佇み、やがて大門の奥に進んだ。

 巨大な大門が音を立てて閉じた。



「ここに墓があると言うことは、イプロスは再びノマダスに?」

 美貌の女性の姿を前に妙に落ち着かないが、アールスはイプロスの墓を見た。

「そうだ。4年後本当にやってきた。大門の前をうろうろしていたので、ポポロに頼み連れてきたのだ」

 ルーポトはころころと笑った。


 イプロスは客人として王宮に滞在することを固辞した。彼は王都ファマトゥの下町に居を構えることを要求し、ルーポトはそのように手配した。当座の資金を提供しようとしたがそれもイプロスは断った。そうしてイプロスのノマダスでの生活が始まった。当初は当然の如く近所に住むアンティノキア達は「卑怯な人間」に対し胡乱な目を向け、交流をあからさまに拒んだ。イプロスは意に介すこともなく、どこからか雑用の仕事を見つけては、黙々と働き始めた。


 人間とアンティノキアの寿命はあまりにも違う。そのため主観的な時の流れの違いも大きく、長い時間がかかったが、黙々と働き気さくに声をかけるイプロスに次第にアンティノキア達も心を開いていった。

 壮年を迎える頃にはファマトゥの住人としてすっかり溶け込み、頼りにもされる存在となっていた。イプロスの性格も幸いしていたのだろう。実際彼は陽気で飾り気のない男で、根は単純であるため、アンティノキアと馬があった。イプロス自身もアンティノキアの一本気な性格は心地よかった。


 ノマダスにおいて初めての人間の住民であるイプロスは有名人にもなっていた。遠くの街からもアンティノキアが訪れた。いずれもイプロスは歓迎し、融和に努めた。

 ルーポトは時間が開けばイプロスを王宮に招き、時には自らイプロスの住まいに出向いた。ルーポトにとって気の置けない相手であり、お互いの近況や政策について、また思い出話など様々なことを語り合った。

 人間はみるみる歳をとる。老人となったイプロスにアンティノキアの住人たちは何くれと無く世話をした。


 ノマダスに来て52年後、イプロスは住人たちに見守られながらこの世を去った。王都は悲しみに包まれ、人々は有志で盛大な葬儀を行なった。ルーポトも個人として参列した。


「イプロスは私にとっても最後まで良き友だった。彼はファマトゥでアンティノキアの尊敬を勝ち得、私の和平の政策に対しても陰ながら尽力してくれた。私が久しぶりに王都に帰り、ある程度の支持を得られたのはその影響も大いにあっただろう。イプロス。彼こそ真の英雄だと心から思う」

 ルーポトは墓に向かい言った。

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