72.即位
72.即位
「そして今に至る…よ」
1000年分だからだいぶあらすじだけど、とグリエラは微笑んだ。
「そして現在は和平を考えてくれている…」
パルは感慨深げに言った。1000年などと言う時間はパルには計り知れない。
「人間も悪くなかったてことか」
ナイルズが言った。グリエラは軽く肩をすくめた。
「そうね、殺しても良さそうな奴もいっぱい見たけど。いい思い出もいっぱいあるわ。いい人たちともたくさん会った。そんな人までは巻き込みたくないわ。でもやっぱり私はアンティノキアの方が好きよ。実直で分かりやすい。悪い奴もいるけど、それでも分かりやすいわ。人間はアンティノキアに比べてややこしい」
「それでも和平を選んでくれたのですか」
パルが問いかける。
「ええ、あなた達と旅をしてことも大きいわ」
「我々と?」
「私は超強かったから」
グリエラはクスリと笑った。
「ニファとして旅を始めた頃、私は『協力』をしたことがなかったわ。一人旅か、同行することがあっても護衛や私が主導で動くとかそんなのばかりだった。でもあなた達とはこれまで力を合わせて協力しながらここまで来たわ。この旅で人間のいいところをたくさん見たわ。結構楽しかった」
不意にグリエラはムッとした顔でパルを睨んだ。
「…適当に決めたわけじゃないのよ。色々考えて和平に決めたのよ、時間はかかるし、簡単には行かないと思うけど」
「では、どうなさるのですか。シュマルハウトには…」
「帰らないわ」
パルの問いにグリエラは決然と言った。
「私は戦死したことにしておいて。私は手始めにすることが沢山あるわ。あなた達はシュマルハウトに凱旋して」
「ふざけるな!眠っていた俺が凱旋だと。そんな情けないことがあるかよ!」
俯いていたイプロスがこちらに勢いよく振り返り怒鳴った。
「確かにそれについては私も忸怩たるものがありますが…堪えましょう」
パルがイプロスをとりなした。イプロスは歯を食いしばり、背を向けたまま黙り込んだ。グリエラも彼の怒る気持ちはわかるため、すまなく思う気持ちはあった。小さくため息をつく。
「…もし帰ったとしても、多分私なら、力を制御してアンティノキアだとバレないようにしばらくは人間として過ごせるかもしれない。でも10年が過ぎたら、ノマダスからアンティノキアが飛来してくるかもしれないわ…私に挑戦しに…」
「あ…」
パルは息を呑んだ。そうであった。ノマダス王の即位後10年は地位の安堵期間があり、それが過ぎれば誰でもノマダス王に挑戦できるのだ。
その挑戦者を倒せば、次の安堵期間は5年を得る。しかしグリエラがシュマルハウトにいる限り、アンティノキアは飛来し続けるだろう。
「…だからパル、国に帰ったらお父様、お母様によろしく言っておいてほしい、ひどく悲しませるでしょうけど…」
「辛い役目ですが…分かりました」
パルは苦渋の表情で頷いた。
「私もできることなら帰ってお父様、お母様に会いたいわ。私封印が解けるまで本当の子じゃないなんて思ってもみなかった。そんなことを考える余地もなく可愛がって、そして叱ってくれたわ。私を拾ってくれたガラもアンティノキアと知っていて育ててくれた。本当はそれが1番の和平の理由かもしれない。だって私の『親』は人間なんだもの」
落ち着いた声だが幾分声を震わせ、グリエラは俯いた。
ノマダス王即位の式典は3日後に行われた。
(まさか魔王の即位に立ち会うとは…)
パルは不思議な気分である。魔王を倒しにここまで来たはずが、仲間が魔王を倒し、魔王になってしまった。言葉にすると訳がわからない。
パルグアンも式典に出席しており、憮然とした顔を隠しもしなかったが、大人しくノマダス王となるグリエラに平伏していた。彼は国内では次代のルーポトと目されていたが、突如現れたグリエラに王の座を攫われてしまい、面白いはずはないだろう。
イプロスもあれからずっと機嫌が悪いのか難しい顔をして列席している。
グリエラの姿は「本来の姿」だという銀髪に褐色の肌を持つ男であった。こちらの方が確かに魔王っぽくはあるなとパルは苦笑した。
式典は簡素ではあるがノマダスの貴族達や有力な商人たちも列席しており、賑やかなものだった。やがて式は粛々と進み、グリエラはノマダスの「長老」たちから、戴冠を受け正式にノマダス王ルーポトとなった。
最後に即位の言葉となった。ルーポトとなったグリエラは、まずは集まった者たちに礼を言ったが、すぐさま和平を目指すことを宣言し、戦争を終結させることを告げた。反応は大きくどよめきが式典会場を支配した。そこには喜怒哀楽が全て詰まっており、バラドラは無表情であったが、パルグアンは怒りもあらわに不敬にもルーポトを睨みつける始末であった。
「いつでも相手をすると言いたい所だが、10年は好きにさせてもらう、その後不満があればいつでもかかって来い」
ルーポトは最後に力強く宣言し、即位の式典は終わった。
後日ルーポトは人間の国々に書簡を出し、魔王がシュマルハウトの英雄たちに倒されたこと、これにより戦争の終戦、ノマダスは完全に鎖国し、一切の交渉はしない事を一方的に宣言した。
知らせの届いた国々は歓喜し、戦争の勝利を喜んだ。シュマルハウト王国の喜びは一入で、英雄たちの凱旋を首を長くして待ち望んだ。
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