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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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68.説明

「ちょっと緊張するわね」

 ノマダス国王となったグリエラが不安げにパルを見た。

 食堂には既にイプロスとナイルズの寝台が運び込まれていた。グリエラが今から二人を起こそうとしている。

「怒るかしら」

「怒るだろうね」

 二人は何故かヒソヒソと小声になった。グリエラは一つ深呼吸をし「よし」と気合を入れ、二人の前に杖を翳した。


「ん…あれ?…朝か。あれ?」

 全く訳がわからず困惑したイプロスは身を起こし、周りを見回した。グリエラを認め、弾かれたように寝台を降りた。

「グリエラ!何があった。誰にやられた!?」

 続いて「飲み過ぎたか…?」と言いながら目を開けたナイルズも一気に覚醒しグリエラを凝視した。

 グリエラはかなり傷は癒えたとは言え、未だ治療後の痛々しい姿であった。

「大丈夫よ。大丈夫じゃないけど…大丈夫なの」

「どう言うことだ!パル!」

 慌てるグリエラの横に控えていたパルにイプロスは詰問した。すでに怒り心頭であった。

「イプロス、ナイルズ。落ち着いて聞いてほしいのですが…」

「落ち着いていられるか!奴らがやったのか?許せねえ」

「落ち着くまで喋らないわよ」

 横からグリエラがぴしゃりと宣言した。


「……………………………………わかった………何が………あった」

 イプロスは肩で息をし、歯が砕けるほどに噛み締めながらようやく言った。とは言え憤懣やるかたない様子である。

「どこから話せばいいかしら」

「思い切って結論から行きましょう。あまりのことに落ち着く気がします」

 パルの助言にグリエラは決心したように頷いた。

「そうね。いいわ。言うわよ。私は、アンティノキアです。ノマダス王を倒し、先日、ルーポトに、なりました。和平を、目指しています」

「おお?」

 語学の授業みたいだな、とパルは独りごちたが、予想通りイプロスはあまりの情報量の多さに絶句している。そして和平を目指す、と言ったグリエラをありがたく思った。イプロスは狼狽えたようにキョロキョロと目を動かし丸く口を開けている。


「え?あ〜…誰がアンティノキアだって?」

「私」

「ノマダス王を倒した?」

「私」

「ルーポトになった?」

「私よ」

「和平?」

「目指すわ」

 グリエラはグッと握り拳を作った。

「ちょっと待て」

 ナイルズが困惑の体で口を挟んだ。

「つまり、俺たちが寝ている間に、グリエラは魔王を倒して、魔王になったってことか?だがアンティノキアってのはどう言うことだ?」


 グリエラは自分がアンティノキアであることを明かし、イプロス、ナイルズを眠らせ、ノマダス王を倒したことを語った。そしてノマダス王になると決めた事を。


「なんて事だ…のうのうと寝ている間に、そんな…」

 イプロスは呆然と呟いた。魔王を倒すためここまで苦難の旅を続けてきたにも関わらず、寝ている間に仲間が魔王を倒したのだ。その徒労感は魔界の大門が空いていた時とは比べ物にならないものだった。

「ごめんなさい。イプロス、ナイルズ。本当に…」

「なんで俺たちを眠らせた!ひでえじゃねえか、言ってくれたら俺だって死ぬ気で戦った!」

「弱く、足手まといで、無駄死にするからです」

 パルが静かに言った。

「なんだと…」

 イプロスがパルの胸ぐらを掴んだ。目が剣呑に光っている。その目をパルが臆することなく見る。

「イプロス。本当はわかっている筈です。あんな怪物に我々が勝てますか?グリエラも我々を守りながらでは奴に勝つことなどできなかった。あなたならなんとしても戦いに参加しようとしたでしょう。ナイルズだってそうです。あなたたちを死なせない為、そして勝つためにやむなくグリエラは決心したのです」

「…クソっ」

 イプロスは手荒くパルを放し、食卓を拳で叩いた。そして顔を背け椅子に座り込んだ。


「…グリエラ、聞きたいことがあります」

 イプロスは不貞腐れているようだが、まあこんな物だろうと気を取り直して、パルはグリエラに視線を戻した。

「ええ」

「あなたはノマダスの王になるが、もしあなたが本気で指揮を取れば、我々の世界はひとたまりもないと思います。本当に和平を目指してくれるのですか」

「そのつもりよ。時間はかかると思うけど。だからこそ魔王を倒した。彼は人間を殺しすぎた。和平を進めるためにも彼だけは倒すつもりだったわ」

「あなたはノマダスの地を踏んで、全てを思い出したと仰った。よければそれを聞かせてほしい」

 アンティノキアであったグリエラ。多分我々以上の年月を生きていた筈だ。どのように生き、何故和平を選択してくれたのかパルは聞きたかった。

「いいわ」

 グリエラは微笑んで、イプロスの寝ていた寝台に腰を下ろした。

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