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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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65.戦闘の終わり

 空が白み始めている。

 戦闘はなおも続いていた。ルーポト、グリエラ共に消耗しているのか、こちらの感じる魔力は明らかに衰えていた。だが、もうまもなく終わるだろう。パルは緊張のあまり杖にしがみつくように戦況を感じ取っていた。


「!」

 神の器から轟音と共に大きな光が放たれ、音が止んだ。

「魔力が…」

 パルが立ち上がり、バラドラもまた巨大な体を起こした。両者の魔力が消えた。

「終わったようだ。神の器から出てきた方が勝者だ」

 バラドラは言った。パルが杖を強く握った。最後の攻撃を放ったのは魔力の性質からルーポトのように思えた。神の器から立ち上る煙が風に流され、辺りが静寂に包まれる。

 パル、バラドラ、そしてポポロの3人は固唾を飲んで器の縁を注視していた。パルの鼓動は今や外まで響かんばかりになっており、じっとりとした脂汗が頬を伝う。

 そして永遠のような沈黙が過ぎたとき、器の縁に影が揺らいだ。

 

「ああ…」

 パルが絶望の声を上げた。

 現れた影は器の縁を掴む手であった。金属のような黒光りする巨大な手、ルーポトのものだった。

 やはり駄目だったのか…。パルは歯を食いしばり、胸を抑えた。

 器の縁を掴む巨大な手に力が入り、今まさに体を引き上げようと、もう一方の手も姿を現す。その瞬間その手が雷光に包まれ、ガクガクと揺れた。両の手は器の縁から消え、崩れ落ちるような音が器の中から響いた。再び長い静寂となり、居た堪れなくなったパルがバラドラに様子を見ても良いかと尋ねようとした時、器の縁から人影がふらつきながら現れた。

「グリエ…ラ?」

「なんと」

 パルとバラドラが同時に声を発した。

 神の器から這い出してきたのは、法衣は至る所が焦付き、埃と煤にまみれた男だった。長い銀髪で褐色の肌、美しい顔立ちをしている。

 男はよろけながらなんとかパルの近くまで歩み寄り、力尽きたように膝をついた。

「疲れた…もう煙も出ん」

 男は力無く笑った。

「グリエラ、なのか?」

「ああ、少し、休ませてくれ」

 呆然と問いかけるパルに囁くように答え、そのまま男は眠るように倒れた。パルが抱き止める。

「相当消耗しているな、王宮に運ぼう」

 バラドラが冷静に言い、ポポロが男を丁寧に抱き上げた。

「これは…一体?」

 パルは呆然として呟いた。グリエラを名乗る男がノマダス王を倒し神の器から這い出した。依然として現状を測りかねていた。

「これほどまで、自分の力と素性を隠しおおせるとはとんでもないことだ、我々も全く見抜くことができなかった」

「素性…?」

 バラドラがパルを見下ろして言った。


「グリエラ殿はアンティノキアだ」


 その日から3日間、病室に運ばれたグリエラは眠り続けた。ちなみにイプロスとナイルズも眠ったままである。

 二人もパルがどんなに呼びかけても起きることはなく寝息を立てていた。グリエラ自身が自分が死ねば説得して国へ連れ戻せ、と言っていた以上、いつかは目を覚ますのだろうと考えるしかなかった。それよりもグリエラの心配である。

 グリエラがアンティノキアである。と言うことは信じ難いことだったが、あのノマダス王と戦い生還した、ということ自体がその事実を裏付けていた。人間がノマダス王に勝つのは奇跡が起きてさえ無理だったろう。

 しかしまるで気づかなかった。彼女にはアンティノキアのような猪突猛進といった気質もなく、思慮深く、パルも作戦や行動計画を立てる際、意見を大いに参考にした。どちらかと言うと猪突猛進の気質はイプロスのものであった。そして何よりシュマルハウトにおいてグリエラは貴族の娘として、出自は確かであったはずなのだ。聞きたいことは山ほどあった。


戦闘後ルーポトの亡骸は至急王宮に運ばれ、改めて死亡が確認された。ノマダスのしきたりに従い、王の葬儀は静かに執り行われ、荼毘に付された。ノマダス全土の鐘楼から鐘が鳴り響き、王が敗れたことが伝えられた。

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