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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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64.知らない魔力

「では行くぞ」

 ルーポトは大きく翼を広げ、飛び立った。その身はまっすぐ、神の器の底へと向かっていく。


「…じゃあ、行くわ。ありがとうパル。無茶を聞いてくれて」

 しばらく神の器を見下ろしていたグリエラが言った。穴の淵を一歩一歩降りていく。本当は止めるべきなのだ。グリエラの言う通り無茶だ。しかしどう言うわけかパルもグリエラの硬い決意を止める事はできなかった。

 それでも最後に、彼女の背中に声をかけた。

「戻って来てください」

 グリエラは振り向き「うん」と答えて手を振った。


「…」

 パルは息を呑んだ。神の器の底で、ルーポトとグリエラが向かい合っているのが見える。ルーポトに対し、グリエラは点のようにしか見えなかった。戦いが始まる。

「パル殿」

 パルに背後から声をかけたのは何とバラドラであった。

「な…何でしょう?」

 驚いてパルが振り返ると、思いの外穏やかな視線を向けたバラドラと目があった。

「すまぬがこちらに下がって頂きたい。ノマダスにおいて戦いは闘神ボッコに捧げる神聖なもの。我々が見る事はできぬ」

 バラドラは盛り上がった穴の縁から、やや低い場所にどっかりと腰を下ろしていた。その横にポポロが立って控えている。戦いを見ることは出来ず、結果がわかるまで待っているしかないと言うのか。パルは無力感に襲われたが、敵とはいえ他国の神聖な決まりを踏み躙るつもりはなかった。

「…そうですか、失礼しました」

 大人しく穴の淵から降り、バラドラの横に腰を下ろした。

「理解頂き感謝する」

「いえ、ではこの神の器から出て来たものが勝者となるのですね」

「その通りだ。それまでは魔力を感じ取り、戦いの帰趨を探るほかない」


「!」

 突如魔力が膨れ上がるのがわかった。ルーポトのものだろう。肌を焼くような強烈なものであった。これだけ離れていてもこの圧力である。戦いが始まったのだ。

「くそ…」

 パルはグリエラを送り出したことを後悔していた。やはり人間が勝てるようなものではない。しかしそのとき。

「これは…」

 バラドラが思わず腰を浮かせた。パルも驚いて顔を上げる。ルーポトの魔力とはまた別の魔力が膨れ上がったのだ。その圧力はルーポトに迫るものだった。

「これが…彼女の真の実力なのか?」

 バラドラがパルに向き直る。パルは呆然と神の器を見上げる。グリエラなのか?こんな魔力は知らない。異質でもあり、彼女のようでもある、判然とし難いものを感じる、しかしその魔力の大きさはあまりにも人間離れしている。

「…わかりません。私も驚いています」

 パルは正直に言った。これがグリエラの魔力なら一縷の希望が見えた気がする。許されることなら一目散に駆け上がり神の器を覗いてみたい。しかしパルは懸命に耐えた。

 

 激しい戦闘が行われている。

 神の器から轟音と共に土煙や黒煙が湧き上がり、時折火球のかけらや雷撃の稲光のようなものが器から飛び出してくるのがパルからも見えた。最初に感じたグリエラの魔力はルーポトに迫るとは言ったものの、やはり相当な差はあった。正面からぶつかり合えばルーポトの勝利は確実だろう。今はただこの差を埋める人間の「狡猾な技」に期待するしかない。パルは今まで体験したアンティノキアとの戦いと同様、ルーポトもまた戦術や作戦を卑怯と断じ、馬鹿正直に戦うことを期待した。今の真の実力を発揮したグリエラなら、今まで培ってきた戦術を駆使し、ルーポトには卑怯と謗られようとも、互角の戦いに持ち込めるかもしれない。現に彼女は神の器の存在も知っていた。その特殊な地形を利用した作戦を用意していたかも知れないのだ。

「戦えている」と言うだけでも驚くべきことだ。少し前までは絶望的な気持ちで彼女を送り出したが、今は拳を握り締め、わずかではあるが希望を持ち結果を待つことができている。


「驚いたな」

 隣で腰を下ろすバラドラが呟いた。後ろで控えているポポロも腕を組み厳しい表情で立ち上がる煙を見上げている。

「正直な所戦いと言えるものになるとは思っていなかった。彼女が戦うと言い出した時は『何のために』と疑問だったが、これだけの力を隠しおおせ、陛下の攻撃をなんとか受け流しながら応戦している…たいしたものだ」

「『卑怯』、とは仰られないのですか?」

 パルは驚いてバラドラを見た。力を隠す、受け流すというのはアンティノキアの気性に反するように思えた。

「そう思うアンティノキアが殆どだろうな。私自身は作戦や技術は理解しているつもりだ…。まあこのような性格のおかげで宰相のような地位を得ることができた」

 ノマダスでは武官が圧倒的に華であり、文官は強き王や武官を支え、雑用を行うものという認識が強く、日の目を見ない地位だ、私のようなものでもなれる、とバラドラは自嘲の笑みを浮かべた。

「バラドラ様が将軍でなくて幸いでした」

 パルの言ったことは心からのものだった。アンティノキアが少しでも作戦に重きを置いていれば、人間に勝ち目はなかったに違いない。

「私ではパルグアンに歯が立たん」

 低い声で笑うバラドラを見て、パルはホッとすると共に、このような考え方をするアンティノキアもいるということに、戦慄を覚えていた。

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