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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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57.誰でも過ぎる

「誰でもというのは文字通り『誰でも』だ」

 ルーポトがニヤリとして言い放った。


 ルーポトと、サカキ、アールスの少人数の夕食であった。距離を置いて緊張した面持ちの給仕達が待機している。

 食事はサカキ、アールスにとって存外口に合うものだった。異種族であるアンティノキアの国に来たのである。ルーポトは心配ないと言っていたが、まともな物が食えるのだろうかと相当心配だったのだ。

 食事は無事終わり、茶の時間となったところで、アールスはサカキに変わって「誰でも」の定義を聞いたのだった。


「人間でも…ですか」

「ああ。勝てるなら」

 平然と言うルーポトに、アールスは唖然とした。「誰でも過ぎる」方だったのだ。

「そうなると」

「サカキ殿の質問になるわけだな」

 ルーポトは軽く頷いた。

「そうです。イプロス様がなぜノマダス王にならなかったのかです。英雄達は4人で戦ったから王になる資格がなかったのではとサカキ様とは話をしましたが」

「いや、挑戦を受けたものがよしとすれば構わない、その場合は誰が王になるか話し合うか、あるいは戦って決めれば良い」

「ではイプロス様はノマダス王になる可能性があった、ということですか」

 アールスは勢い込んで尋ねた。ルーポトの答えならイプロスはその資格があるはずなのだ。

「…それについては明日話そう、案内したい場所がある」

「大丈夫なのですか、明日以降お忙しいのでは?」

「問題ない」

 ルーポトはあっさりと答えた。


 ルーポトによるとノマダスの時間の流れはアールスから見れば万事ゆっくりと流れているとのことだった。寿命が長いため人間に比べ時間の尺度が違うのかも知れない、とアールスは想像した。突然来たということもあるが、和平の使者の歓迎式典やパーティも5日後に行われるという。シュマルハウトであれば翌日には、何ならこの夕食の時間がパーティに当てられていてもおかしくはない。公務に関しても、今まで百年以上国を開けてきた王が急にすることなどない、バラドラが上手くやってくれている、と満足そうに言った。


 翌朝、アールス達は案内され、王宮の塔の頂上にいた。何本か空を刺す塔の一つである。

「ここから転移する」

 ルーポトが石の床から突き出た円形の台を指し示した。

「一体どこへ?」

 アールスは不安げに台を見つめた。シュマルハウトで転移魔法を使う場合はしっかりと魔法陣を描き、魔石を配置し、詠唱を行う。それでようやく一抱えほどの物資を転移できる、入念な準備を要する高度な魔法なのだ。それが塔の先端の空間に置かれた、単なる石台に乗り気軽に転移と言われても、恐ろしさが募るばかりだった。

「名所の観光と行こう。さっさと乗るがいい」

 ルーポトが手をひらひらと動かした。


 目を開ける前に風が顔を撫で、陽光を感じたためアールスは転移が完了したことがわかった。

 それにしても音も衝撃も全くない。恐る恐る目を開ける。

「あ!」

 3人は巨大な穴の淵に立っていた。穴の形は見事な円形で、埋まっていた巨大な球体をそのまま取り除いたような、とても自然でできたとは思えない形をしていた。アールスは心当たりがあった。多分ここが…

「神の器だ」

 ルーポトの銀色の髪がたなびいている。サカキは早速画材を取り出していた。辺りを見回すと荒涼とした大地が広がっており、乾いた風が砂埃を立てている。太陽はまだ低い位置にあり、神の器の底まで影がさし、3人の影は長く伸びている。水の豊富な王都ファマトゥと比較してひどく乾燥した土地だ、場所としては相当離れているのだろう。

「ここは…?」

 熱心にペンを動かしながらサカキが尋ねた。ルーポトが以前アールスにした説明を再び行った。その時はおとぎ話すぎないと思ったアールスだが、実際の神の器をこの目で見ると星屑が落ちた跡、巨大な神なる玉が飛び去った跡だ、と言いたくなるのも無理はない景色だった。


「先王もここで戦った」

 ルーポトは器の底に目をやる。地位の高いものは基本的には神の器で戦う。ここで魔王と英雄達は戦い、英雄達は人数を一人減らして再び器の外に出たのだ。

「陛下はその当時どうされていたのですか?」

 ペンを止めたサカキがルーポト見た。アールスもそういえば確かに…とルーポトに目を向けた。彼は現ノマダス王なのだ。つまり当時も強く、それなりの地位についていたはずだ。和平を胸に秘めていたとはいえ、先王の指揮下、人間にとってルーポトもまた厄災となる存在だったのだろうか。今のルーポトを見る限りとても想像はできないが、その可能性を考えると複雑な思いであった。彼もまたノマダス王の地位を得る際にここで戦ったのだろうか。

「…次の場所へ案内しよう」

 サカキの質問には答えず、ルーポトは踵を返した。


 次に転移した場所は湖を見下ろす山肌にある四阿だった。先程とは違い潤いを含んだ風が柔らかく吹いていた。湖の対岸に優美な城が見えている。

「あれは…王宮では?」

「そうだ」

 と言うことはファマトゥに戻ってきたらしい。四阿は中央に丸い石台が置いてあり、どうやら転移用のものらしい、そこを離れ緑に囲まれた小道を進んだ。しばらく進むと、山肌に張り付くように整備された一角があり、磨き上げられた石の塔と石碑が立っている。しかしそれよりもまずアールス達の目に入ったのは石の塔の隣に立つアンティノキアだった。

「ポポロ、来てくれたのか。久しいな」

 笑みを浮かべたルーポトが声をかけた。上背こそ4エル以上ありそうだが背中の翼を除けば人間の女性のような姿だ。意匠を凝らした軽鎧に身を包み、高い地位にある事を窺わせた。基本無表情なサカキが目を丸くして見ている。

「陛下」

 ポポロと呼ばれたアンティノキアは跪き、頭を下げた。

「バラドラ様から、シュマルハウトの御使者を案内されると聞きお待ちしておりました」

「ふふ、堅苦しいな。まあ良い。サカキ殿、アールス。これはポポロと言う者だ。バラドラに仕える戦士だ。強いぞ」

「よろしくね」

 ポポロはにっこりと笑った。

「さて、こちらに」

 ルーポトは二人を石の塔へと促した。

 

 見ると石の塔の下には花が置かれている。

「これは…墓ですか」

「そうだ。石碑を見るが良い、大陸語でも書かれているので読めるだろう。よければ祈ってやってくれ」

 サカキとアールスが墓に近づき、石碑を見ると、見たことのない字とともに大陸語の文が並んでいた。もう一つはノマダスの文字だろう。

「この地にて、永遠の平和を……」

 途中まで読み上げたアールスは絶句した。

「これは!?」

 アールスが目を見開いた。サカキも呆然としたように石碑を睨んでいる。

 石碑にはこのように書かれていた。


_この地にて 永遠の平和を 見守る   イプロス_ 

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