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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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55.鋭い問い

 (何を言っているんだ)

 アールスがまず思ったのがそれだった。頭の中が疑問符で一杯になった。

「…」

 ルーポトはサカキの問いに即答せず歩を進めていたが、やがてフフフと楽しげに笑った。

「さすがシュマルハウトの将軍。剣技だけではなく問いも鋭いな」

 笑うルーポトに群衆がどよめいた。彼らから見れば談笑をする友好的な関係に見えたのだろう。しかしアールスはすっかり混乱していた。魔王を倒しに行った勇者がどういうカラクリで魔王になるのか。

 擦り切れるほど読んだ「英雄の旅」にはそんな記述は当然ながら全くない。


 大魔道士グリエラを失うほどの激闘の末、英雄の一行は魔王を破った。その事実はノマダス全土に衝撃を与え、アンティノキアは軍を引き、国を閉ざした。英雄達は混乱の中ノマダスを脱出し、シュマルハウト王国に悲しみの凱旋を果たした。国民は英雄達を歓呼の声で迎えると共に、グリエラに対し、数ヶ月喪に服したと書かれている。「英雄の旅」はそのような記述で終わっている。

 

 アールスとて「英雄の旅」の記述を全て鵜呑みにしているわけではない。当時のシュマルハウトが国威発揚のため、英雄の勲やシュマルハウト軍の活躍を多少は脚色し、大げさに描いている面もあるだろうとは思っている。国民には出せないような情報はいくつかはあるだろう。

 しかしそれにしてもサカキの質問はアールスにとって突飛過ぎた。どうしたらそう言う結論になるのかいくら考えても理解できなかった。

「いずれにしても歩きながら話せる様なことではないな。まずは城に向かおう」

 ルーポトは依然として笑みを浮かべていた。


 アールス達は王宮を見上げていた。ノマダスについた時遠くに見えていた城は優美な美しい姿をしていたが、近くまで来てその大きさに圧倒された。巨大なアンティノキアの行き来する城なので、当然何もかもが大きい。王宮の両横から滝が凄まじい音を立てて流れ落ちている。城に勤める兵士や、文官、貴族であろう身なりの整った者達が城門の前に大挙しており、久々に王宮に入る国王を滝の音にも負けない歓喜の声で出迎えた。

 例によってサカキはペンを走らせ、城の威容を描いた。ルーポト、バラドラ、アールスの姿も絵に収め、城の巨大さをうまく表現していた。

「見事なものですな」

 巨大なバラドラが体を丸め縮こまりながら、サカキの絵を覗き込み嘆声を上げた。

 

 城門がゆっくりと開いた。城門内にもアンティノキア達は多数おり、歓声はさらに大きくなった。

 その時アールスは英雄達に想いを馳せていた。彼らはどのような思いでこの城を見たのだろうか。たった4人で敵地ノマダスに入り、この城にたどり着くまでにも数多の魔物を倒し、ここに辿り着いたことだろう。そして最後の戦いを前に決死の覚悟でこの城を見上げたに違いない。

 かつてノマダスの国王を殺しに来た人間は、200年の時を経て和平を提案する使者としてやってきたのだ。


 ルーポト達は城門内に入った。門の奥は中庭になっており、そのまま城内へ至る扉まで真っ直ぐ石畳の通路が伸びている。城の窓々から女官達が魔力を操り無数の花吹雪が降り注いだ。王宮自体が王を迎える歓喜に打ち震えているようだった。サカキは目に焼き付けるようにこの美しい光景を見ていた。

 歩く視線の先に今度は王宮の扉が王を迎える為に開くのが見えた。


 王宮に入る扉の前でルーポトは振り返った。居並ぶアンティノキア達がこちらを見ている。ゆっくりと手を挙げると水を打ったように静まり返った。ルーポトはそれを見て頷き、ゆっくりと口を開いた。

「長らく国を開けていたが、皆よくこの国を守ってくれた。礼を言う。私は今後、平和で、なおかつさらに強い国を作るつもりだ。それには皆の協力が不可欠である。頼んだぞ」

 歓声が爆発した。

 アールスもその歓声に心が揺さぶられるものがあった。ルーポトがアンティノキアの前で明確に平和を口にし、大きな歓声がそれに答えたのだ。ルーポトは本当に和平を求めていると証明した。

 歓声に手を振る事で答えたルーポトは踵を返し、アールス達を促して王宮に入った。


 ついにノマダス国王が王宮に戻った。

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