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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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54.歓声

(これほど好意的に迎えられるとは)

 ルーポトは意外な思いで、民からの歓声を浴びていた。

 自らがノマダス王に即位し、戦を止め、長年にわたりさまざまな政策を整えた。その後バラドラに政を任せ、旅に出たあたりでは、主戦派の勢力は半数以上を占め、これほど支持はなかった筈だ。実際何度かルーポトは戦いを挑まれ、退けている。


 いわばバラドラに政を丸投げし、己は人間の世界を知るためノマダスに戻ることもなく今日まで旅をしていたのである。将軍の地位にあるパルグアンとの戦いもあったため、ルーポトの交代を望む声は多いものだと思っていた。

 もっともノマダスと全く連絡をとっていないわけではない。ルーポトや宰相を務めるバラドラほどの者であればかなりの距離でも連絡を取り合うことができる。そのため、ここ最近和平派に支持が集まりつつあるという報告を聞いてはいたが、実感はなかったのである。


 しかし久しぶりにノマダスに帰り、景色こそ当時と変わっていなかったが、民の思いは様変わりしている様だった。ルーポトは傍に立つバラドラを見上げた。

「改めて礼を言う。よくやってくれた様だな。これほど歓声を浴びることができるとは思わなかった」

「陛下のおかげで戦のない生活を知ったのです」

 バラドラが王都を見下ろし満足そうに言った。風向きが変わったのはアンティノキアの尺度としてはごく最近、数十年ほど前かららしい。ルーポトが終戦・鎖国を布告した直後から最近までは、「戦い」という生活の一部が奪われたかの如く目的を見失い、他に何をすればと「弱腰」な国王に対して反対が多かったが、生活が続く内に静かで平和な状態も悪くない、むしろ良いのではと簡単に言うとそのようになってきたようだ。

「第一に陛下がパルグアンを倒したと言うのも大きいと思われます」

「なるほど」

 平和に馴染み始めた民たち。その中で主戦派の急先鋒、パルグアンが敗れたことは、強さを重んじるアンティノキアにとって決定的な転機となったのだ。焦燥した主戦派の最後の賭けが、ルーポトへの挑戦だった_それがバラドラの見立てである。


「久しぶりのご帰還です。何卒民衆にお言葉をお願いします」

 観衆の反応を確認したバラドラが、恭しく願い出た。

「あまり慣れぬが…やってみよう」

 ルーポトは苦笑して顔を上げた。アンティノキアの民たちは一言も聞き逃すまいと静かになった。


「長らく不在にしていたにも関わらず、このように迎えられ感謝している。そして本日は歴史的な日だ。南の大国シュマルハウト王国より和平の提案を携えた二人の使者を迎えることができたのだ。しかも彼らは将軍・宮廷魔道士の要職を持っている。それが和平のために来てくれたのだ。私はこの使者を丁重に迎え歓迎する意向である。民の中には私の掲げる政策に対し、軟弱・弱腰とそしる者もいるだろう。そう思う者は私の前に立つが良い。いつでも相手になろう」

 再び歓声が爆発した。ルーポトが民衆に手を振る。バラドラも満足そうに眺めていた。

「王城に向かいますか」

「そうしよう」


 街を降りてもなお、歓呼の声は鳴り止まなかった。ルーポトを一目見ようと群がる民の数は減らず、道という道を埋め尽くしていた。アールスとサカキの周りには護衛のアンティノキア兵士が張り付いているが、驚いたことにルーポトやバラドラの周りに警護は全くついていなかった。

 後で聞いたことだが、ノマダスにおいては高い地位にある者も護衛はつけない。それが高い地位にある、すなわち強い者の矜持なのだ。そしてどれほど国民すべてに憎まれる王であっても、暗殺や陰謀により退けるのはもってのほかである。正面から戦いを挑まない限り、卑怯者のそしりを免れない。この国は強さこそが全てなのだ。


 狭い道路を埋めるアンティノキアたちはやはり皆大きい。アールスには群衆が壁のように見えた。姿は様々でトカゲやドラゴンのような爬虫類型、身長は大きいが人間に似た者、パルグアンのような獣の様な者。アンティノキアと一括りにして良いのかと疑問を持つほど、多種多様な姿をしていた。

「本当にいろんな姿をしているのですね。アンティノキアは」

 アールスは言葉使いを改め、ルーポトに話しかけた。バラドラや兵士たちの手前、いつも通りの口調で話すのは憚られた。

「アンティノキアは大きな魔力により、精神状態によって大きく姿を変える。この国は強さを最も重んじる。その為、体を大きくし、自分にとって戦闘に適した体を作り上げるものが多い。または憧れや尊敬するものの姿をとることもある」

「見たところバラドラ様のようなドラゴンの姿の方々が多い様ですね」

「先代の国王の影響だろう。先代のルーポトはドラゴンのような姿をしていた。私が優れた統治を今後行えば、人間の様なアンティノキアが増えるかもしれんぞ」

 そう言ってルーポトは軽やかに笑った。


「陛下、恐れながらお聞きしたいのですが」

 不意にサカキが口を開いた。アールスは驚いてサカキを見た。サカキからルーポトに話しかけるのを初めて見たのだ。ルーポトも興味深そうにサカキを見た。

「なんだ」

 サカキがルーポトをまっすぐ見て言った。

「勇者イプロス様はノマダス国王にならなかったのですか?」

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