49.焚き火
その後はルーポト、パルグアンの戦場を後にし、一行は日が傾くまで馬を進め、森の草地で野営することになった。
ルーポトは旅慣れているため、王という肩書きに似合わず、地面に横たわることにも何ら抵抗を見せない。サカキも訓練で行うためか、野営に躊躇いはない。むしろアールスが一行の中では一番不得手だったが、この旅において相当慣れてきた。素早く天幕を張る。身分的には圧倒的に下っ端であるため、サカキも手伝ってくれようとするが、かえって気を使うため進んでアールスがやっている。集めてきた薪に火球を当て火をつける。魔道は旅には非常に重宝する。乾燥地帯であっても魔道なら空気中から水を抽出できる。商人達も大きな距離を移動する際は魔道士を帯同させることも多い。
夜の帳が降り、焚き火の灯りが3人を照らしている。サカキはいつ獲ってきたのか、ウサギを捌き、手際よく木の枝に刺し焚き火の周りに突き刺している。うまそうな匂いが漂ってきた。アールスとルーポトはワトビアがたっぷりと残していった茶葉から熱い茶を飲んでいた。アールスが茶を啜りながらルーポトに尋ねた。
「視察って言っても何をしていいんだかな」
「私に聞く事でもなかろう。サカキ殿と相談するがいい。まあこちらとしては、見た風景。アンティノキアの民・幹部の印象。和平を結ぶに値するのか、到底望むべくもないのか。見たことをそのまま国に伝えると良い」
ルーポトはただ焚き火を見つめている。
「幹部にも会えるってことか」
「ああ、言っておくが最高幹部は私だぞ」
「…そう言えばそうだな。よく考えたらとんでもないことだ」
一緒に旅をしているのでつい忘れかけていたが、魔王と旅をしているのだ。
「何でまた和平なんて言い出したんだ」
「平和に越したことはないだろう」
ルーポトは薪を焚き火にくべた。
「そりゃそうだがあんたは和平を説くその口で、パルグアンには人間の闘い方を参考に強くなれって言っていた。矛盾してねえか?」
「まだ何か企んでそうに思うか」
ルーポトが苦笑した。
「そういうんじゃねえが…これ以上強くなってどうするんだ。何考えてんだって思うだろう」
「平和のためには強くあることも大事だろう」
「まあな…強けりゃ攻め込まれねえ。しかしアンティノキアがこれ以上強さを目指したら、人間としちゃ恐ろしいだろう。あんた方はどっちかと言うと攻め込む側だ」
アールスは顔を顰めて木片を焚き火に投げた。
「人間はアンティノキアを恐れているのか」
「そりゃそうだろう」
ルーポトの問いに、アールスの声が思わず大きくなった。200年前のことは実感というには程遠いものはあるが「魔族は残虐で恐ろしいもの」というのは国を問わず人間の共通認識であろう。そのようなものがさらに強くなると聞けば、警戒するのは当然である。
一方ルーポトは木の枝で焚き火を弄りながらふと夜空を見上げぽつりと呟いた。
「私も人間を恐れている」
「は」
「先代のルーポトもな」
「?…先代ってのは英雄達に倒されたやつだろ」
「そうだ」
ルーポトの告白はアールスにとってあまりにも現実感がなかった。
「先代こそ人間を恐怖に陥れた『魔王』じゃねえか、そんな奴とあんたが人間を恐れる理由などチリほどもないだろう」
「人間を恐れたからこそ、先代の王は人間と戦い、私は和平を試みているのだ。手段は違えど大元の理由は同じなのだ」
アールスは顔を顰めた。
「…わからねえ。人間の何を恐れるって言うんだ?」
「フフ…旅は長い。それについてはおいおい話そう。サカキ殿。これは食べても良いのか」
「…どうぞ」
サカキはうっそりと頷き、串を地面から引き抜いて差し出した。油が滴り落ち、火の粉がはぜた。
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