46.食堂
まずは腹ごしらえよ、というポポロに案内され、街に降りた。歩いて移動する一行をアンティノキアの民が足を止め見ている。英雄一行と知ってか知らずか、胡乱な目、興味深く観察する目、敵視する強い眼差しで見ており、ポポロの言とは裏腹に、戦争中の人間に友好的な目を向ける者はいなかった。アンティノキアの姿は一様ではなく、ポポロの様に巨大だが人間の姿に似た者、ドラゴンの様な容貌に太い尾を持つ者、犀のように分厚い皮膚と筋肉に覆われた無骨な者。多種多様である。ただ体は強さを誇示するように大きく人間の倍以上あり、巨大な種族であった。
パルは街並みを観察していた。驚いたことに王都にもかかわらず大きな道があまりない。細い道や階段は街を形作る渓谷の縦横に張り巡らされているが、基本は飛ぶことを前提に設計されているようで、高い建物の中ほどに唐突に玄関があったり、屋上から出入りするのか、窓やバルコニーだけが見える建物が随所に見られた。
もし戦争が有利に進み、人間の軍隊がノマダスの侵入を果たしても、この国を攻略するのは極めて難しい、とパルは思った。道も満足になく、馬で進むことができず、起伏に富んだこの場所にまともな物資を運ぶことも難しく兵站も伸び切るだろう。兵士も分断され、空を飛ぶアンティノキアから、的の様に攻撃される。
各国の連合軍もアンティノキアの侵入を防ぐのに精一杯の状況である。この王都を見ることができたのは収穫だった。やはりアンティノキアを止めるには我々が魔王を倒すしかない_。
パルは決意を新たにしていた。
「よく食べるわね、あなた達。もっと頼む?」
ポポロは英雄一行の食欲に驚かされていた。案内したのは高級料理店というわけではなく、街角の食堂という風情の料理屋であった。一行のこういう場所の方が気やすいという希望でもある。
アンティノキアにとってはこじんまりとした料理屋なのだろうが、一行には広々として見える。並ぶ椅子や食卓も大きく、座面はイプロスの胸ほどの位置にあり、食卓に至っては背丈を超えていた。客も幾人かおり、ポポロを見た者は居住まいを正し、頭を下げた。しかしその視線の先に人間の姿を認め、ギョッとしたように目を見開いたが、何も言う者はいなかった。
ポポロは頭を下げた者達に目で頷き、そのまま食堂の奥の扉まで歩き、中に入った。そこは個室でアンティノキア用の食卓と、人間にもちょうどいい大きさの食卓が一つずつ配置されていた。
「この食卓はノマダスに時々やってくるエルロフ用の物よ。彼らはあなた達と大きさが変わらないから用意してもらったの」
ポポロが座る様に促し、皆が座るのを見て、自分も腰を下ろした。
「エルロフの人々と交流があるのですか」
辺境の地には度々訪れるというエルロフをパルは見たことがなかった。ノマダスにも来ているとは知らなかった事だ。
「交流というほどでもないけど、かれらはふらりとやって来てふらりといなくなるわ」
その辺りは人里に訪れるエルロフと変わりないようだ。
「お酒を頼もうか?」
ポポロが一向に訊ねた。
「この後すぐに城へ行くわけじゃないのか。それならさすがに遠慮するが」
ナイルズが殊勝に答える。
「いいえ。今日の執務を終えられてから陛下はお会いになるわ。夜になると思う」
「じゃあお願いしよう」
ポポロの答えにナイルズが跳び上がらんばかりに頷いた。
そのとき扉が開かれ、店の主人と思われるアンティノキアが料理を持って入ってきた。姿は人間に似ているが腕が4本ある。3本の腕で料理を持っている。ポポロに黙礼し一行をギロリと見て無言のまま料理を置いていく。うまそうな匂いが部屋に漂った。ポポロが酒を追加した。
食材は近辺で取れる野菜や獣だという。一行は黙々と食べ始めた。
英雄一行は日頃戦闘や魔力の消費などで日々多大な活力が必要なためなのか、よく食べる。中でもグリエラは先程の体調の異変もすっかり忘れたように、華奢な見た目にもかかわらず一時も止まらず食べ物を口に運んでいる。よほど口にあったのか顔が綻んでいた。味覚は人間とアンティノキアにそれほど違いはないようで、皆満足した表情を浮かべていた。ナイルズは久々の酒の味に至福の表情だ。
「ノマダス王は何故我々と会う気になられたのですか」
人心地がつき、パルは改めてポポロに訊ねた。
「知らない。陛下に聞けばいいじゃない」
「…」
にべもない答えに、一行は顔を見合わせる。その様子を見たポポロがクスリと笑った。
「あなた達も我々と散々戦って来たんだから、アンティノキアの気性なんて大体わかっているでしょう。大して考えず目の前の敵を蹴散らすのみってね。あなた達は馬鹿にするかもしれないけどそれがアンティノキアの誇りでもあるのよ。その最たるものがノマダスの王ルーポト様。ある意味最も単純な方よ。多分大した理由じゃないわ」
愚弄しているわけではないことはポポロの目を見ればわかる。アンティノキアにとっては単純であること、単純でいられることが強さであり、尊敬を集めることなのだろう。
「…では、あなたがもしノマダス王なら我々を呼んでどうすると思います?」
「ん〜そうねえ」
パルの問いにポポロは頬杖をつき、机をトントンと指で叩いて考えていたが、程なく答えた。
「私なら、英雄ってどんな奴らだ。顔でも見ておくかって感じかな」
「単純すぎやしませんか…」
あまり参考にならなそうだな、とばかりに一向を再び顔を見合わせた。
「何よ、これだから人間は…」
ポポロは頬を膨らませた。
「うまかった」「とても美味しかったわ」「ごちそうさまでした」「飯も酒も美味かった」
料理屋を出る際、一行は次々に声をかけ出ていった。でかい鍋を混ぜていた主人は一瞬驚いたように一行を見、うっそりと頷いた。客の一人が「そこまで悪い奴らには見えなかったな」と他の客に話すのが漏れ聞こえた。
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