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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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45.王都ファマトゥ

「ここよ」

 ポポロが立ち止まった。最初に会った場所からそれほど歩いてはいない。そこで手を広げ誰かに呼びかけるかのように詠唱を唱えた。それは今まで聞いたことのない言語だった。

「!」

 巨大な隧道を塞ぐほどの大きな結界が現れ輝きを放った。

「この結界をくぐるとノマダスよ」

 ポポロが手招きする。


 ノマダス。魔族_アンティノキアの住む、敵の本拠地である。

 英雄一行は驚いて立ち止まった。近過ぎる。大門に入ってから丸一日も立っていない。地図的に考えてもまだ何日もこの暗い隧道を進まねばならない、と覚悟していたのだ。思わずそれについてパルが尋ねるとポポロは事もなげに言った。

「転移するわよ。遠いもの」

「転移ですって!?」

 グリエラが驚いて叫んだ。驚愕に目を見開いている。

 転移は人間にとっては夢の技術と言っていい魔法だ。理論上は可能とされているが、物を別の場所に送るにはまだまだ実現が困難な魔法である。ましてや人を送るなど夢のまた夢と言うのが現状だ。亜空間移動に関する知識は最近まで端緒すら掴めていなかったが、グリエラ自身がきっかけを作った。開いた亜空間にある程度の物体を保管できる方法を開発したのだ。今回の旅でも食料・武装品の保管などに大いに役立っている。しかしまだその複雑な術式、必要な魔力はグリエラしか使う事ができない程高度なものであるため、現在のところ実用化には至っていない。


 もし転移魔法をアンティノキアが戦争で用いたら、とパルは身震いした。こればかりはアンティノキアの矜持に感謝したい思いだった。

「陛下は今、全軍の戦闘を止めておられる。人間たちは何が起こったか分からず戸惑ってるみたいだけど。我々は卑怯な戦いは好まない。ノマダスであなた達を攻撃する者はいないわ。」

「本当にノマダス王に会えるというのか、俺たちは」

 イプロスが巨大な結界とポポロを交互に見上げる。

「会えるわ」

「もし帰ると言ったら?」

「あなた達を大門まで送り届け、門は閉まる。そして再び戦闘の続きよ」

 ポポロは無表情で一行を見下ろした。


「なら会うしかねえな」

 勢いよくイプロスが言い、パルを見た。

「これだけの人間を運べるの?」

 グリエラがポポロに尋ねた。初めて体験する転移魔法に恐れと期待が入り混じった顔だ。

「大丈夫よ、心配ないわ」

「酒はあるのか?」

 長らく酒にありつけなかったナイルズが、妙に真剣な顔で問いかけた。

「いくらでも。口に合えばいいけど」

 ポポロが笑って受けあった。


「…」

 魔王ルーポト。まだ誰も見たことがない恐怖そのものとも言える存在だ。いつか相まみえるべき、倒すべき存在ではあるが、あまりにも敵の懐に入り過ぎはしないか、とパルは逡巡していた。皆パルを見ている。

 パルは大きく大きく深呼吸しアンティノキアのある種の潔さに賭けることにした。

「行きましょう」

 英雄一行は力強く結界をくぐった。


 その瞬間、世界が一変した。


 まばゆい光に包まれ、長い闇に慣れた目が一斉に細まった。陽光は穏やかで柔らかだったが、それでも馴染むには少し時間が必要だった。

「おお」

 眼下にノマダスの「街」が広がっていた。何体かのアンティノキアが空を移動しているのが見える。

 街は切り立った渓谷にあり谷底には美しい青い川が這うように流れている。幾つもの建物がその地形に張り付くように建てられており、崖の岩をくり抜いて造られている施設もあちこちに見られる。渓谷の縦横にいくつか橋もかけられており、極めて立体的な構造をした街であった。切り立つ壁からいくつも滝が流れ落ちており、目を奪われるほどの絶景で、陰鬱な風景を想像していた一行は目を疑った。


「美しい」

 パルは思わず呟いた。

「ルーポト様のお計らいで特別にこの場所に結界を開いたのよ。ここは王都ファマトゥ。ようこそノマダスへ。我々アンティノキアは英雄一行を歓迎します」

 ポポロはにこりと笑って両腕を広げ、歓迎の意を表した。そして街の遠方を指し示した。

 渓谷を目で辿ると遠くに一際美しい城が見えた。その城は湖の端に位置し、両脇には湖の膨大な水が直接流れ落ちる巨大な滝あり、濛々と水煙を上げていた。城の下部は水煙で霞むほどだ。尖塔がいくつも空に伸び陽光を受け白く輝いていた。湖に浮かぶ白鳥のように優美な城であった。

「あの城は…」

 パルがつぶやくとポポロは胸をそらした。

「王宮よ。ノマダス王のおわす城。あそこへあなた方を案内するわ」


「グリエラ!大丈夫か?」

 イプロスがグリエラに駆け寄った。膝をつき両手で杖を持ち体を支えていた。顔面が蒼白で肩で息を吐いている。脂汗が地面に落ち、尋常な状態ではなかったが、グリエラはイプロスを手で制した。

「ああ、大丈夫だ…大丈夫よ…」

しばらく固く目を瞑り、息をしていたが、数分後、ようやく落ち着きを取り戻す。

「いきなりここに来たから…魔力に酔った感じがしたのよ…さすがノマダスね…至る所に強い魔素がある」

 イプロスとパルにはアンティノキア特有の魔素は感じたが体調の変化はないようだ。ナイルズは魔力を持たないため、何の変化もない。大魔道士ゆえに影響を強く受けているのかも知れない、とパルはイプロスと顔を見合わせた。


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