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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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44.修行の2ヶ月

 結果としてアールスのナティア滞在は約2ヶ月に及んだ。

 アールスにとっては充実した期間であった。


 当初は1ヶ月程度と思われていた為、アールスはナティアの兵士や魔道士たちと集中して戦闘訓練を行った。魔道士たちは下級魔道士であったが、魔獣狩りの経験が豊富で、攻防の技においても見事な腕前を見せた。その実力にはアールスも目を見張ったが、それでも宮廷魔道士の肩書は伊達ではなく、彼に敵う者はなかった。早速一目置かれる存在になり、ナティアの魔道士たちとも技を学び合い、良好な関係を築くことができた。


 ルーポトはアールス達と道すがら出会い、実力を買われ同行してきた魔道士として紹介され、当然本当の素性を明かされることはない。しかしその防御力から格好の「的」として全力で攻撃をぶつけられる存在として、意外なところで役に立った。

 どのような攻撃にもびくともせず、涼しい顔で受け流す姿は、底知れない実力を感じさせ、魔道士だけではなく兵士達からも畏怖と尊敬の念を勝ち得た。ただし教えるのは苦手のようだった。


 またアールスは、兵士たちとの実戦訓練にも参加した。相手と距離を取れば、魔道が圧倒的に有利ではあるが、出会い頭や、懐に踏み込まれると咄嗟に攻撃や防御することは難しく、簡単に組み伏せられた。王都では組織は縦割りで騎士と魔道士が合同で訓練することがなかったため、このような課題が浮上していなかったのだ。

 騎士は魔道士と距離を取られた場合、魔道士は騎士に距離を詰められた場合、それぞれの対処法をよくわかっていないのだ。

 これは王都における騎士と魔道士の組織のあり方に原因がある。魔道士は地位を問わず、素質があるものを登用するのに対し、騎士は基本的に貴族の子弟がほとんどである。その為、騎士は魔道士を平民と侮り、魔道士は騎士を鼻持ちならない奴らと敬遠する傾向があった。その為合同訓練の企画は以前から何度も俎上に登るのだが、なかなか実現に至っていない。


 その点ナティアでは魔道士と騎士は緊密に連携をとりながら訓練や練兵を行なっており、アールスは非常に勉強になった。

 ナティアの兵士は腕っ節に自信のある平民や冒険者から兵士に取り立てられたものが多く、貴族もほとんどいないため、魔道士への偏見もなく、不愉快な思いをすることがなかった。アールスが皆と同じ食堂で食事を取ることも大きかったのだろう。当初は宮廷魔道士という肩書が人を遠ざけていたが、次第にそれもなくなり、訓練を共にした兵士達と食べることも増えてきた。

 

 瞬く間に一ヶ月が過ぎたが、王都からの使いとやらは一向に来ず、アールスも気を揉んだ。

 そんな折、マンフレートから呼び出された。


 マンフレートが鹿爪らしく言ったのは「ここでの宿泊費を稼げ」ということだった。1ヶ月は聞いていたがそれ以上は知らん。どうにかしろと愉快そうに笑った。

 そこで提案されたのは自由労働者協会に登録し、そこから仕事を得よ、いい経験になるだろうということだった。

 自由労働者協会は国が運営しており、登録さえすれば、「編み物から魔獣狩りまで」あらゆる仕事を依頼でき、あらゆる人々が仕事を受けられる仲介組織である。

 集まる仕事には当然地域性がある。このナティアは自由国境が近いということもあり、国土の拡張を目的とした土木工事、魔獣狩りと言ったような仕事が多く集まる。仕事の依頼は辺境伯自ら行う場合もある。

 マンフレートの紹介状のおかげで、アールスは最初から難易度の高い依頼にも挑める資格を得ることができた。

 

 アールスとしては協会に登録し仕事を得るというのは自分の中の少年心をくすぐるものがあり、心が躍るのを禁じえなかった。

 登録証は魔石が組み込まれた石のカードで、魔石に受けられる仕事の等級・仕事の実績が保存されている。早速登録を終え、ホールの掲示板に貼られた依頼書を吟味していると、いつの間にか現れたルーポトが私も暇だから混ぜろと依頼書を眺め始めた。

ルーポトはすでに登録証を持っていた。旅をする際に仕事をこなし路銀を稼いだのだという。

 最初の仕事を決め、受付を行う。その受付で一悶着があった。受付の女性がルーポトのカードを見た時、目を見開き、ルーポトとカードを交互に5度見て、「少々お待ちください」と奥の部屋へ駆け込んだ。

 その後はこの領地の協会長がやってきたり、マンフレートの元にも使いが行くなど、ちょっとした騒ぎとなった。


 ルーポトはエルロフの冒険者「ニファ」として登録されていた。

 エルロフはアンティノキアと同じほどの寿命を持つとされる、森の奥深くに住む人間の姿に似た種族である。地方によっては神として崇拝している人々もいる。人里に現れることは滅多になく、歴史の表舞台に出てくることの極めて少ない、神秘と謎に包まれた種族だ。

 冒険者として100年以上の実績がありその実績もドラゴンを倒すなど驚異的なものが多く、「ニファ」は冒険者の間でも伝説的な存在だったのだ。 

     

 エルロフはシュマルハウト王国ともかつてはわずかに交流があったと聞くが、現在ではすっかり途絶えており、アールスはエルロフの姿を見た事がない。実在さえ疑っている。

 とりあえず大騒ぎのうちにアールスの冒険者としての仕事が始まった。アールスは積極的に未統治地帯に入り魔獣狩りを行った。時にはルーポトの助けを借りることもあったが、狩りをこなしていくうちに魔獣に対する当初の怯え・不安が自信に変わっていった。結果としても満足いくもので、マンフレートから課せられた宿泊費も稼ぐことができた。そんな中、滞在が2ヶ月に及ぼうかという頃、王都からようやく使いがやって来たのだった。

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