43.ワトビアの帰還
「いやあ、私もぜひ見てみたかった」
二日後の夜、ナティアに戻り、戦いの結果を伝えると、マンフレートは興奮も露わに破顔した。
王都にはすでに魔道による暗号報告が飛ばされており、いち早くタミルが復号し、昨日の内にカール5世に伝えられているはずだ。
「ではしばらくこちらに滞在なされるのですな。歓迎いたします、ルーポト様」
(ん?)
どういうことだ。そんな話があったのか?と思ったがこの場では一番下っ端であるため、アールスは口を噤んでいた。
「よろしければ兵士たちにも色々指南してやっていただきたい。そちらの宮廷魔道士殿もな」
マンフレートがニヤリとアールスを見た。
(ん?)
「俺は明日の朝王都に戻る。魔道士長がいつまでも不在というわけにはいかんからな」
アールスはワトビアの滞在する部屋に呼ばれるなり、そう告げられた。
「俺はどうするんだよ」
「お前はルーポトの監視も兼ねてここでしばらく世話になれ。その後は追って王都から指示が来る」
ルーポトが首尾よく勝利を収めた場合、こうなることはお偉方にとっくに決められていたのだろうと、アールスは即座に理解した。宮仕えである以上急な命令は何度も経験していることだ。
「しばらくってどのくらいだよ」
「1ヶ月くらい…だと思うが、よくわからん」
ワトビアが無責任にも言い放った。
「1ヶ月も!?長くねえか」
「色々あるんだよ」
ワトビアはあくびをしてベッドに体を投げ出した。
「せっかくこんな辺境まで来て、戦いを見ただけで帰るだけなんてアホらしいだろ。報告なら俺ができるしな。お前には貴重な修行の時間だ。マンフレート殿に聞いて、兵士たちと手合わせするなり、魔獣狩りに出かけるなりして、自分の実力を把握しろ」
思いがけないことだった。ナティアに着いたらすぐ王都に戻り、王宮の警護につく日常に戻るものと考えていたのだ。
(実戦か_)
孤児として下町で暮らしていた時は喧嘩など日常茶飯事で、なかなかの悪党として知られていたアールスであったが、宮廷魔道士となってからはほぼ実戦は経験していない。平和な王都では命に関わるような出来事は起こらなかった。ワトビアによる厳しい訓練により、それなりの力はあるはずという自負はあるが、模擬戦を行う宮廷魔道士の同僚たちも自分と互角の実力を持っており、アールスが突出しているというわけではない。そして今回見たルーポトの現実とは思えない戦いを見て、自分の実力というものがアールスには今一つ分かっていない。自分の実力は是非試してみたいが、不安もある。
「前にも言ったが俺が鍛えた魔道士はつええんだ」
ワトビアは腕を枕にしながら、薄く目を開けて言った。
「実戦の経験がほぼ無く、自分の実力がわからねえってのは魔道士団共通の悩みだ。平和な世の贅沢な悩みだがな。だがここに1ヶ月もいればお前は自分が強いことがわかるはずだ。必ず自信がつく。その経験を共有すれば仲間の自信にもなる。思う存分暴れてみろ。寝る」
ワトビアは毛布をガバッと羽織り、寝返りを打った。見る間にいびきを立て始める。
アールスは呆気にとられ、その姿を見ていたがやがて苦笑し部屋を出た。
翌朝、空が白み始めた頃、アールスは王都へ戻るワトビアを送るため砦の門に来ていた。マンフレートとルーポトも顔を出している。
「マンフレート殿。世話になりました」
ワトビアはマンフレートと握手を交わした。
「お主にも兵士達に稽古をつけてほしかったがのう」
握った手をガシガシと振り回し名残惜しそうにマンフレートは言った。
「それは楽しそうですがあまり王都を開けるわけにも参りません。こいつをしばらく置いていくことにします。迷惑かけんじゃねえぞ」
そう言うとアールスを目で指し示した。
「はっ」
マンフレートの手前、アールスは殊勝に頭を下げ頷いた。
そしてワトビアはルーポトに向き直り、軽く膝を折り、拳を胸の前で合わせた。高位の者に対する戦士の礼である。
「素晴らしい戦いぶり感服いたしました。あなたとお会いできた事はこのワトビア一生の宝となりましょう。また良い形でお会いできることを楽しみにしております」
まるで長い別れのようなかしこまった挨拶にアールスは眉を顰めた。
「うむ、また会おう」
ルーポトは静かに微笑んだ。
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