42.王命
「なぜ私を生かしたのですか…」
苦しげに荒い息を吐きながら、パルグアンは問うた。さすがに回復にはまだ時間がかかりそうであった。
ルーポトは威儀を正し、真っ直ぐにパルグアンに目を向けた。
「そなたは強い。ノマダスに必要な存在だ。まだまだ働いてもらわねばならん。いつか何者かに地位を奪われるまで、全うせよ」
パルグアンが息を呑んだ。そして淡く笑みを浮かべその息をゆっくりと吐いた。
「本来ならば臣下の礼を取るべきなのですが」
「よい」
ルーポトが笑って首を振るとパルグアンも今度こそ小さく笑い声を上げた。
「自分はもっと強いと思っておりました」
「強いぞ。お主の言う『小賢しい』人間の闘い方を学べ、そうすれば私に届くかもしれん」
「…」
パルグアンは何も言わず、ワトビアとアールスを胡散臭げに見下ろした。カスにも等しい力の人間から何を学ぶことがあろうかと、聞こえてくる様だった。
「魔力の量で言うならパルグアン、そなたの方があるだろう。にもかかわらず短時間で決着がついた。よく考えよ」
ワトビアやアールスに対するような余裕を含んだ口調ではなく、王らしく臣下に対する厳しい口調だった。
「…」
パルグアンは無言のままだったが、その顔つきには、深い思案の色が浮かんでいた。
「さてと、まずはナティアに戻って中央に報告せんとな」
ワトビアが腰を上げる。
「パルグアン。お主は国へ戻るか?」
「ひとまず。生き恥を晒すことになりますが…」
「生きることは恥ではない。しかし、お主を甘く見た挑戦者が現れるかもな。だが殺すな、これは王命だ。人間と和平を進める私の元でより大事なアンティノキアの国民を殺すことは許さぬ」
ルーポトの厳しい口調にパルグアンは息を呑んだ。
「…は、承知しました。陛下は如何なされるおつもりで…」
パルグアンがルーポトを伺い見た。
「少し話そう。構わんか?」
ルーポトがまずパルグアンに促しそしてワトビアを見た。
「ああ」
ワトビアが頷いた。パルグアンがまだ動けそうにないため、その場を離れた。
「構わなかったのか?」
離れたところで話をしているルーポト達に目をやる。
「お前もさすがにあの戦いを見て、魔族どもが悪巧みをしているとは思わんだろう。あれは真剣勝負だった。少なくとも俺はそう判断した」
「それはそうだが…」
ワトビアの力強い物言いにアールスも首肯する。
実際にルーポトに向けられた火球や、パルグアンを襲った電撃、そして体の損傷。それがこちらを欺く演技だと言うなら喜んで騙されよう。そう思えるほどの戦いだった。
「俺たちは戦いの証人としてここに来ただけだ。それは果たした。違う国の王と将軍が話し合うって言ってんだ。こちらがとやかく言う話じゃねえ」
正論である。こちらが話を聞かせてくれと頼むのならともかく、話すことを拒否する権利などない。
「しかし…すげえ戦いだったな、なんだあの魔力は…」
そう言ったワトビアは話し合うルーポト達を見て、大きくため息をついた。
「あんなのと渡り合ったってことだろ?英雄様達は。信じられん…」
「…」
アールスも同様のことを考えていた。
あの強大な攻撃、魔力。先ほど目撃した天災とも言えるほどの力と戦い、かつ倒した英雄と呼ばれる人間が過去にいたのだ。
勇者イプロス、大魔道士グリエラ、賢者パル、聖騎士ナイルズ。一人一人が突出した不世出の実力を持っていたと言われているが、それが同じ時代・同じ場所に集い魔王を倒したのだ。まさに奇跡である。
ワトビアさえも呆れるほどの力である。アールスは己にそれ程の力は到底ないと言うことを痛感していた。そしてその力に至る方法も想像だにできなかった。
「へっ、しかしそんな伝説の人物と自分を比べてもしょうがねえ。ひとまず結果としては安心だ。のんびりナティアに戻ろうじゃねえか」
気を取り直すようにワトビアが言った。
ルーポトとパルグアンはまだ話し合っているようだ。ルーポトが点のように見えるのに対し、パルグアンは異様な大きさである。そのパルグアンがルーポトに対し臣下の礼をとった。そして一歩後ずさると、バサリと翼を動かし、土煙を残し飛び去った。その姿は一瞬で雲間に消えた。
「さて、戻るか」
パルグアンを見送り、ルーポトはこちらに戻ってきた。
「どうやら本当にあんたは魔王様のようだな。すげえ闘いだった。今後はルーポト様とでもお呼びすれば良いのかな」
ワトビアが決まり悪そうに頭をかいた。
「それも悪くないが一緒に旅をした仲だ。このままで良い」
ルーポトは軽やかに笑った。
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