41.決着
「…」
あの火球を受けて無事とは思えなかった。
火球はルーポトごと貫いたようにアールスからは見えた。震える手を握り、目を見開いた。ルーポトのいたあたりは煙と蒸気、土埃が渦巻き何も見えない。
パルグアンは手応えありといった表情で拳を強く握り立っている。しかし煙が晴れた時、驚きに目を剥いた。
ルーポトは戦う前と同じ姿勢で立っている。怪我もない様であった。
「今のが先に教えた防御の応用例だ」
ルーポトがアールス達に語りかける。火球を受け流す様に弾き返したようだ。攻撃の威力は想定内だったのか声に焦りはない。もっともあの威力の火球を弾けたのはルーポトだからであり、我々なら消し炭になっているだろうとアールスは背中が寒くなる。
「…」
一方、いとも簡単に火球を弾き返されたパルグアンは呆気に取られている様だった。
「思ったよりも威力があった。さすがに強いな貴様」
ルーポトはパルグアンに顔を向ける。
「一体どうやって…」
「貴様の言う『小賢しい』人間の知恵だ、パルグアン」
冷たい笑みを浮かべ挑発するようにパルグアンを見、細かな火球をいくつも出現させた。腕を振ると呼応するようにパルグアン目掛けて向かっていった。
「ふん…この程度か」
パルグアンにとってはさしたる脅威はなかったが火球の数が多いため防御結界を半球状に張り巡らせた。直後火球が次々に防御結界に着弾し轟音と共に爆発と閃光を上げた。
「!?」
爆発が止んだ後パルグアンが目にしたのは自らの張った防御結界に突き刺さる2本の金属の矢であった。鋭利な先端が防御結界の内側に食い込んでいる。爆発の轟音と閃光に紛れルーポトが打ち込んだのだろう。
ルーポトに目を向けると手が青白く発光しており、そこから蛇のように這う光がこちらに迫ってくるのが見えた。
「が」
パルグアンの視界は白く輝き、貫く様な衝撃が体に走った。その衝撃は永遠に続くようにパルグアン思われ、
体を反り返らせていたが、やがて糸が切れたように崩れ落ちた。
恐ろしい雷撃だった。あたりが白く染まるほどの光が放たれた。離れた場所にいるアールスの髪も逆立ち、パチパチと音を上げた。金属の矢を介し、結界内のパルグアンに雷撃を浴びせたのだ。巨体がガクガクと反り返り白く発光し、身体中から光が弾けていたのは身震いするような光景だ。
ルーポトが手を下ろすと光が消えた。狼の顔から煙を出し、パルグアンは崩れ落ちた。
「でか…」
ワトビアが思わずつぶやいた。
パルグアンの巨体が横たわっていた。鼻面がアールスの胸元近くまである。焦げ臭い。
「…死んだのか?」
ワトビアがピクリとも動かないパルグアンの顔を覗き込む。
「いや…大丈夫だと思うが…」
初めて見るルーポトの表情だった。幾分慌てたようにパルグアンに近づいた。
「…」
3人は途方に暮れて立っていたが、しばらくすると巨体が身じろぎした。そして薄く目を開けまどろむ様に視線を漂わせていたが、ルーポトの姿を捉えると目を大きく見開いた。
「大丈夫か。パルグアン」
「俺は…負けたのか…」
顔を顰め、ゆっくりと体を動かす。
「無理をするな、そのままで良い」
ルーポトが声をかけたが「その様なわけには」と唸りながら身を起こし、体を岩にもたせかけた。
「まあお主ならすぐに回復するだろう」
ルーポトがふっと息をつく。
アールスはパルグアンを見上げた。この恐ろしい魔力を出し、国をも滅ぼすような火球を放つアンティノキアをルーポトはいとも簡単に倒したのだ。まさしく彼は魔王_ノマダスの王なのだろう。
パルグアンが下から見つめる人間の目に気づいた。眼光がスッと鋭くなった。
「人間などにこの神聖な戦いを見せたのですか」
抑えてはいるが怒りと当惑が滲んでいる。
彼にとってちっぽけ過ぎる気配のため今まで人間の存在に気づいていなかったらしい。アールスはその眼光の圧力に押しつぶされる心地がした。
「許せ、証人として必要だったのだ」
ルーポトが苦笑して言うと、パルグアンは憮然とし、大きなため息をついた。
「やはりあなたの考えは私にはわかりませぬな」
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