3.アンティノキア
アンティノキア_。
個々が強大な魔力を持ち、1000年を超える寿命を持つとされる生物である。
翼を持つものや一見獣のようにしか見えないものなど、多種多様で異形の姿を持つものも多い。アンティノキアを研究する学者によれば、人間に比べはるかに魔力と精神の相互作用が大きく、それが肉体を変容させる要因だという。そしてアンティノキアを率いる「魔王」により人間は過去絶えることの無い戦闘に見舞われた。長い寿命と関係があるのか、個体数こそ少ない。しかし個々の強大な戦闘力により、人間に甚大な被害をもたらし、それは200年前英雄イプロスが魔王を倒すまで続いた。
その後アンティノキアはもともと住んでいた北の辺境、人を容易に寄せ付けない急峻な山々が壁をなすノマダス地方まで後退し、現在に至るまで人間が治める国に干渉はしていない。しかし今もなお各国は警戒を怠っておらず、監視団を絶えず送って調査しているが、新たな「魔王」が現れたのかどうかは不明である。というのがアールスの持っているアンティノキアに関するわずかな知識である。
とはいえ200年という歳月は人間にとってあまりに長い。アンティノキアの存在はすっかり市井の人々にとっては「歴史」となり、もはや実在していたのかどうかも怪しい伝説の怪物と化している。
しかし突如として魔王を倒した英雄の出身地となる王国の中枢部に、アンティノキアを自称する者が現れたのである。アールスの緊張は極限に達していた。鼓動が早い。
「危害を加えるつもりはない。安心しろ。お主に私はどうこうできぬ」
緊張するアールスとは対照的にアンティノキアの男は悠然と宣言した。
「書物庫の外にいた警備の者はどうした?」
アールスは低く問うた。
「さあ、今ものんびり警備を続けているんじゃないか」
男は微笑んだ。
ここにいる時点でただ者ではない。そしてあまりに落ち着き払った男の態度に少し興味もわいてきた。危害を加えないと言う男に賭けてみるか。アールスはひと呼吸して、男と距離をとりながら出口に近い椅子に腰掛けた。
「その魔族が何でこんな所にいるんだ?」
「当然本を読むためだ。シュマルハウト王立図書館ほどそれにふさわしい場所はあるまい」
何を当たり前のことを、と言わんばかりに男は答えた。
「本を盗みに入ったわけか」
「いいや。そのようなことをせずともここに来ればいつでも読める」
それはおおよそ侵入者の態度と言えるものではなかった。
「……それにしても大した自信だな。俺じゃお前を始末できんというのか?」
「その通りだ。次元が違う。お主が全力で攻撃してもそよ風ほどにも感じぬ。加勢を頼んでも同じだ。そして私は脅威にもならない存在をわざわざ排除しない。なので安心していい」
上級魔道士である自分、そしてシュマルハウト王国宮廷魔道士団の矜持を逆撫でする男の発言は、アールスの中にじわりと闘志の火を揺らめかせた。
「ということは安心して攻撃してもいいってことか、ああ?」
「……」
「俺は上級魔道士アールス。宮廷魔道士として警備の任を拝命している。侵入者と遭遇した以上、放置は出来ん。拘束する」
アールスは身構え素早く印を結ぶ。すると手に杖と法具が現れた。
男は初めてわずかに驚いた様子を見せたが、すぐに笑みを浮かべゆっくりとアールスの方に身体を向けた。
「まあ得心するまでやってみるがいい」
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