37.街道
ルーポト、ワトビア、アールスは未統治地帯の街道を馬に乗り進んでいた。警護の兵は付いていない。
マンフレート辺境伯は兵を出さず、待機することを了承した。何かあった場合はナティアにいる下級魔道士に暗号を施した伝令を飛ばすことになっていた。
国境を抜け森を縫うように続く街道は、しばらく進むと所々荒れ始め、石畳が欠け、雑草が顔を出す場所が目立ち始めた。魔獣が我が物顔で跋扈する森のためなかなか整備は難しいようだ。
「馬も落ち着いているし、魔獣の気配もないようだな」
アールスの横に馬を寄せ、ワトビアが言った。
「もしなんか出たら、お前の訓練になるんだが…」
ナティアには2日滞在し、馬を借り受けて出発した。その間マンフレートや砦の騎士たちに魔獣についてあらましは聞いていた。
巨大な牙を持つ虎や、ヴォイドと呼ばれる粘液状の生物。付着すると炎を上げる体液を吐き出す鳥といった、多様な恐ろしさを持つ獣達が森にはいるらしい。中でも恐れられているのが有翼の竜ワイバーンで、膂力も強く、強力な炎を吐く。マンフレートもよほど人数が揃っていない限りは相手にせず、息を殺して逃げると言うことだった。
「ワイバーンって凄そうだな。一度見てみてえなあ」
ワトビアが木々の切れ間から空を窺う。空には小鳥が飛び交っている。幸い今のところ、森の恐ろしさを実感するような獣には遭遇していなかった。
「本当に出たらどうするんだよ」
アールスは少々不安であった。魔獣が現れても簡単に引けは取るまいと言う自負はあったが、予測もつかない動きをしそうな魔獣相手は簡単では無いだろう。
「なんとかしてみろ、俺たちの護衛をするつもりでやれ」
ワトビアがニヤリと笑いかけアールスの背中を叩いた。
「…」
「心配すんな。お前含め宮廷魔道士団は平和なファルスで闘う機会がほぼないからわかんねえだろうが」
再びアールスの背中を叩く。
「俺が鍛えた宮廷魔道士団は割と強いぞ」
とは言え何事もなく夜を迎え、3人は木々の途切れた場所を見つけ、焚き火を囲んでいる。時折どこからか鳥の叫ぶような声や木の折れるような音が聞こえてくるが、獣の気配は近くからは感じなかった。
魔王とシュマルハウト王国の魔道士長、そして一介の宮廷魔道士の俺が無法地帯の森で焚き火を囲んで茶を飲んでいるとは_。孤児の悪ガキとして育ち素質を見出されワトビアに拾われてからは、鍛え上げられ宮廷魔道士となった。ここまででも十分な出世と言ってもいいだろう。それなのに、なんということか魔王に会い、それをきっかけに王女や国王にまで顔を覚えられ、今は初めて国境を越えこんな所にいる。不思議なものだとアールスは炎に照らされたルーポトを見た。
ルーポトは何が面白いのか焚き火の番を務めており、炎の様子をじっと見ながら薪を足したり、棒でかき混ぜたりしている。
「そういえば、急にパルグアンの嫌な気配が無くなったんだが何故だかわかるか」
頭を手で支え寝転んでいたワトビアが残った茶をグイッとあおり、ルーポトに尋ねた。
「…あ」
アールスはそう言われ今気づいた。北に向かうにつれ重苦しさを増していた気配が消えていた。情けないことに魔獣のことに気を取られ、気づいていなかったようだ。
「大したことではない。私を探すのをやめたようだ。今はのんびりと未統治地帯をほっつき歩いている」
「やめた?どう言うことだ」
「私に代わり今、政を補佐している者、バラドラというが、彼からおおよそ私の居所は聞いているのだろう。だから未統治地帯までやって来て、シュマルハウト王国の方向に意識を向け探っていたのだろうが、私が気配を絶っているため見つけられん。そのため腹を決めてのんびり待つことにしたのだろう」
ルーポトはそう言って燃えている薪をつついた。
「このままほっとけば諦めて帰ってくれんもんかね」
「それでは私が怖気付いたようではないか」
ルーポトが声をあげて笑う。
「挑戦を受けたなら、真正面から受け止める。それがノマダスにおける王の務めだ。見つからんからといつまでも隠れているのは、私自身にとっても恥ずべきことだ」
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