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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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36.使者

「野犬の群れか何かなの、あなたたちは!」


 隧道の真ん中で英雄一行は魔物の気迫に押され座らされており、幾分項垂れている。

 向かい側に、魔物が腕を組み、大きく足を広げ一行を見下ろしていた。倍以上の身長を持つ者から見下ろされるのはイプロスから見てもなかなかの迫力であった。


 魔物は怒っていた。

「なんの躊躇いもなく、私を見るなり攻撃してきて!たった一人でこうして来ているのよ。『何者だ』とか『何が目的だ』とかあって然るべきじゃないの?」

 魔物の顔は紅潮し、足をドンと地面に踏みつけた。

「そう言われましても…今までそうやって俺たちは戦って生き延びてきたんだよ。それはお前たちも同じだろ」

 イプロスが顔を上げ弱々しく反論する。

「確かに凄い連携だったわ。次から次へ。正直感心しちゃったわよ。でもね?なんなのよ!特にあなた」

 魔物は力強くイプロスを指差した。

「何?あの虚無みたいな目!なんであんな穴ぼこみたいな目で攻撃してくるのよ。情ってもんがないの?死ぬかと思ったわよ!」

「いや…まあそのつもりでやってましたんで…」

 イプロスはヘラヘラとを笑みを浮かべ頭をかいた。すでに少し面白がっているようであった。

「でしょうね!腰だめで突進してくるなんて。本当に勇者なの!?あんなのゴロツキじゃない!」

 魔物にしてもあれは相当恐ろしいものだったらしい。一瞬ブルッと体を震わせた。

「大きな声ではしたない。使者なら使者らしく旗印でも立ててきなさいよ」

 袖で口を抑え不快げに眉を顰めグリエラは魔物を見上げた。

「あなたの最初の火球で燃えたわ」

 氷点下の声で魔物はグリエラを見下ろした。

「まあまあ…お二人とも落ち着いて」

 睨み合う二人にパルがあわてて割って入り、再び頭を下げた。

「使者の方とは知らず、申し訳ありませんでした。そして迎えに来たと言われましたが、どこに行くのでしょう」


「…そうね」

 パルの問いに、魔物は気を鎮めるように軽く頭を振った。

「どうせ人間ことだから開いてる門を見て、何か企んでるとか罠じゃないかとかウダウダ考えて、まだ外にいるんじゃないかと思っていたの。そしたらこんなところまで来てるじゃない。そこはさすが英雄たちね」

「気を遣って来てくれたって訳か。親切な魔物だな」

 ナイルズがおどけて騎士の礼を取ると魔物は眉を顰めた。

「魔物なんて言わないで、私たちは誇りあるアンティノキアよ」

 魔物は毅然として言った。そして今までとは一転して優雅な動作で、英雄一行たちに向き直り、跪いた。

「我が主、ルーポトの命により使者として遣わされましたポポロと申します。皆様をノマダスにご案内するよう承っております」


英雄たちは驚きに息を呑んだ。

「…ル…ルーポト?魔王その人が!?」

 パルが魔物、ポポロに問い返す。

「ノマダス王よ」

 ポポロが静かに立ち上がり、尊敬を込めた声音で言った。

「ここからいくら先に進んでもあなたたちはノマダスには着かないわ。特殊な結界によって、異空間を永遠に彷徨うことになる。だから道案内に来たの。判断は任せるけど来て欲しいわ。こちらから攻撃はしないと誓います」

「…」

 魔王討伐の旅に出て、もう3年ほどの月日が流れている。今まで魔族と戦って来た経験から、ポポロが真っ直ぐにこちらを見て言った言葉を、パルは信じてもいいような気がしていた。

 魔族は小細工がなく戦いに関しては馬鹿正直と言ってもいい。攻撃すると言えば攻撃するし、しないと言うなら…しないだろう。

 英雄と呼ばれるようになり、旅に出てから色々な人間にもあった。英雄に取り入ろうとへり下る者、逆に英雄何する者ぞと尊大な態度で己を大きく見せようとする者、そのほか数え上げるとキリがない。無論誠実で素晴らしい人々にも多数出逢えた事は付け加えなくてはならないが。

 人間に比べて、魔族は行動に裏がない。そのような奇妙な信頼がパルにはあった。


「行こうぜ、パル」

 イプロスがパルを笑顔で見ている。彼も魔族に関してはパルと同じような判断をしているのだろう。

 いつも先に決断するのはイプロスであった。パルを決して軽んじているわけではない。彼がパルに対し全幅の信頼を置いていることは日頃の言動や行動からわかっている。もしパルが「行かない」と言えば、あっさりと「そうか」とこちらの判断を支持するだろう。

 しかしいつも自然な態度で指針を最初に示す。さすがは勇者だな。パルも思わず微笑む。

 そして表情を改めポポロを見上げた。

「魔…失礼、ノマダス王が自ら我々にお会いになると?」

「ええ。『ぜひ会いたい。歓迎する』とのお言葉よ」

 4人の一行は顔を見合わせ、頷いた。

「招待を受けようと思います」

「ありがとう。歓迎するわ。初めての人間の客人」

 ポポロは微笑んだ。

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