35.殺気
「…ん?」
パルは違和感を覚えた。
グリエラを守る障壁を張りながら、魔物の動きを注意深く観察していた。敵と戦う際は相手の行動を読み取り、的確な指示を出すのがパルの役割である。
(攻撃の意思がない?)
その魔物は攻撃を必死にかわしているだけのように見える。
もっともイプロス達が反撃の間を与えない動きをしているのだが、それにしても…。
どうにも魔族らしくない。隙がなければ『肉を切らせて骨を断つ』を地で行くような、殺気を漲らせ力の限り殺到してくると言うのが今まで戦ってきた魔族であった。それが逃げながら何かを訴えているようであった。
グリエラの2発目の火球が爆発した。これは避ける時間がなかったのか障壁を貼って防いでいる。あれを無傷で防ぐとは相当力のある魔物だ。魔物はすかさず翼を広げ、全力で大きく後退し再び何かを訴えた。いつもの魔族とはあまりにも様子が違う、パルは決断した。無数の氷の矢を今にも発射しようとしているグリエラを手で制し、イプロスとナイルズに攻撃を止めるよう呼びかけた。二人は即座に攻撃を止め、少しの距離を挟み魔物とイプロスが対峙する。
「ちょっと待てとか言ってたな、そんなことを言った奴はお前が初めてだ」
イプロスが大剣を背中の鞘に収めながら言った。
なおも身をかがめ障壁を張り、様子を伺っていた魔物はその言葉に目を見開いた。
「え?聞こえてたの!?」
その驚く仕草や声は身長を除けばほぼ人間の女性のようだ。
「魔物の言うことなんか相手にするわけないだろう。パルが言うから止めたんだ」
イプロスはぶっきらぼうに答えた。
「無茶苦茶だわ…」
「一体どういうことでしょう?あなたは攻撃の意思がないように見えましたが…ああ、私はパルと言います」
ゆっくりと歩み寄ってきたパルが、魔物を見上げた。魔物は身を屈めているがそれでも顔の位置はかなり上にある。パルの後ろには依然警戒を解かず鋭い目を向けるグリエラがいる。魔物はやっと話のわかりそうな奴が来たという面持ちで、ホッと息をつき、障壁を解いた。
「私は迎えの使者です」
魔物は立ち上がった。近くにいると余計に大きく見える。
「門が開いているだけでは不案内だろうと、迎えに来たの。戦う気はないわ」
「…そうでしたか。それは失礼致しました」
「悪かったな。今までこうやってきたもんでな」
パルとイプロスが謝った。ナイルズは後ろで軽く手を挙げた。グリエラはまだ魔物を睨み上げている。
このようなことになるとはパルには意外であった。こうやって魔物と会話をする事自体初めての経験である。
「失礼しましたじゃないわよ、ちょっと座りなさい」
魔物の声が低く、重くなった。
「え!?」
「座れ」
魔物が今日初めて殺気を放った。
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