34.戦闘
「やっぱり魔物の気配は全然ないな」
イプロスは周りを見渡しながら言った。
巨大な大門をくぐり、隧道を進んでかなりの距離になる。あれだけ巨大だった入り口は今は背後で星のように小さく光っている。グリエラが魔道の光を10エルほどの高さで灯しているが、隧道内は広く、天井に光は届かず前方と左右の壁がぼんやりと見える程度だ。
通路は滑らかに舗装されており、アンティノキアにもなかなかの技術力があることを窺わせた。この空間をノマダスまで通すと言うのはかなりの難事業のはずだ。
「出口は全然見えねえな」
ナイルズは手を頭の後ろに組みのんびり歩いている。
「この先ずっと真っ直ぐとは限りませんからね」
「それもそうか」
パルの返事にナイルズはカラカラと笑った。
「もう暗いとこは嫌なんだが…」
地下迷宮での苦労を思い出し、イプロスは気の抜けた声で言った。
「朝から文句ばっかり、勇者らしくキリッとしてなさいよ」
グリエラが呆れて言った。
その後、しばらく歩き続けていたが、一向に変化は訪れず、真っ直ぐな隧道を進み続けていた。もう背後の入り口の光も届かない場所まで来ている。
「もう昼くらいじゃないか?暗いからよく分からんけど。腹が減ってきた。弁当食おうぜ」
「そうですね。そろそろ休憩しましょうか」
腹を押さえてウダウダと言うイプロスにパルも苦笑した。
「今日はイプロスが当番よね。またお肉ばっかり入れてないでしょうね?」
「お肉ばっかり入れた」
「馬鹿なの?私は野菜も食べたいのよ!もっと気を使いなさいよ。そんな適当なのあなただけよ!」
キリッとした顔で言ったイプロスにグリエラが怒って振り向いた時だった。
彼女がふと立ち止まり、皆に静かにするように手で制した。
「…」
イプロスが無言でグリエラに目をやる。グリエラが呟いた。
「魔物の気配」
一行は直ちに戦闘体制に入った。イプロスがすらりと大剣を抜く。グリエラが上空に灯していた光を操り、前方に放った。光は隧道の空間を明るく照らしながらかなりの速さで進む。その時何かが光に浮かび上がった。魔物の翼のような輪郭を認めた瞬間、グリエラは一瞬も躊躇うことなく巨大な火球を出現させ、それに向けて全力で放った。同時にイプロスとナイルズも走り出す。
火球は轟音と共に一気に殺到し、それに命中し、爆発した。
「熱っっっつ!」
爆炎の中から声が上がった。イプロスは爆炎をものともせず、その声に向かって剣を振り抜いた。
「!」
イプロスの鋭い剣は爆炎を切り裂き、煙を薙ぎ払ったが、そこに敵の姿は無かった。
煙が薄れ落ち着いた時、その魔物はイプロスの前方で自分の掌を見つめていた。
「痛い…血が出てる。あの魔力でなんでこんな威力があるんだろう?」
魔物の姿は人間の女性に似ているが、頭部の左右から牡牛のような角が生えている。冒険者のような出立ちで軽甲冑をつけており、巨大な翼が背中で折り畳まれている。ただし身長はイプロスの倍以上もあった。
「そうか、火球を楔のような形にして、威力を一点にまとめたのか…なるほどな〜」
感心したように呟く魔物に対し高く跳躍し、首を狙って切り掛かったのはナイルズだった。
「わあ!」
魔物は地を蹴って斬撃をかわした。
「ちょ…ちょっと待って」
魔物は慌てて一行を見やると、続いてイプロスが殺到しており、グリエラは次のさらに強力な火球を現出させようと今度は詠唱を唱えている。パルはそれを守るため障壁を張っている。
イプロスが斬りかかろうと剣を上げたため、魔物は再び地を蹴って距離を取ろうとしたが、イプロスの動作は陽動であった。イプロスも共に地を蹴り、魔物の懐に入った。大剣は持っておらずいつの間にか小刀を腰だめに持ち、体ごと魔物に突っ込んでいく。
キンと金属をついたような音が響いた。魔物が咄嗟に張った障壁がイプロスの刃を防いだのだ。そうと見るやイプロスは身を屈めた。グリエラの火球が魔物の目の前に迫っている。
「ちょ」
火球の後ろで、イプロスの大剣を走りながら拾い上げたナイルズが剣を前方に放り投げる。イプロスは後ろを見ることもなく剣を受け取り、火球が魔物に届いた後の動きに備えた。グリエラは既に次の詠唱を始めており、無数の鋭い氷の矢が現れ始めていた。
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