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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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33.信用

 城砦の玄関広間から応接間に案内されしばらく待っていると扉が大きく開き、男がどすどすと足音を響かせながら入ってきた。

「すまない、所用が立て込んでな。久しいなワトビア」

「ご無沙汰しております。マンフレート殿」

 ワトビアは破顔して頭を下げた。

 分厚い。マンフレートを見たアールスの感想だった。縦にも横にも分厚い筋肉が体を覆っている。襟を突き破りそうな猪首に髭を蓄えた顔が乗っている。その顔がルーポトに向いた。


「あなたがルーポト…殿か」

 その目は興味にはち切れんばかりに血走っているように見えた。

「ああ。マンフレート辺境伯。世話になる」

 ルーポトはその目を鷹揚に受け止めた。

「あなたがノマダスの王であるなら、こちらから口を開くことは極めて非礼であることは承知しているが、ご容赦願いたい」

「構わぬ。まだそちらから見れば自称に過ぎぬということも心得ている。ただ今回の戦いで多少信憑性は増すと思うが」

 笑みを浮かべてルーポトは言った。


「タミル殿からあらましは聞いているが、今後どのように動かれるおつもりだ?」

 協議は早速始まった。どっかりと座ったマンフレートとワトビアの机を挟み、向かい側に肘をつきルーポトが座っている。アールスはワトビアの後ろに立って控えていた。机にはナティアから未統治地帯の一部が描かれた地図が広げられている。

「未統治地帯に戦場に使えるような場所を教えてほしい」

「それなら…」

 マンフレートは少し考え、場所を指し示す。

「国境の外は未だ手のついていない森が広がっております。馬で2日ほどの距離を進むと森を抜け、荒地に出ます。多少起伏のある場所ですが」

「それだけ距離があればいいだろう、そこで私は気配を解く。そうなれば程なく戦いが始まるだろう」

 ルーポトは無表情で頷いた。

「そこに行くまでに魔獣がうようよいます。それに将軍級のアンティノキアが近づいているという有事だ、もっともあなたは『魔王』…」

 あなたこそ一番の有事だが…、とマンフレートは自嘲の笑みを浮かべ続けた。


「こちらも非常時に備えそれなりの兵を出した方が良いかもしれませんな」

「無駄だ」

 ルーポトのにべもない答えに、マンフレートはさすがに気を悪くしたのか鋭い目を向けた。

「我が兵を愚弄なさるか」

 その声音にアールスは一気に緊張し、ワトビアはどうすんだよ…といった顔でルーポトに目を向けた。

「単なる事実だ。非常時とは私が敗れた場合のことだろうがパルグアンには勝てんぞ。やめておけ、どうしても出すというなら、私に止める権利もないが…」

 当の本人は涼しい顔で淡々としている。

「それほどの力を持っていると仰るか」

「ああ、タミル殿から聞いているだろうが、向こうから手を出してはこない。そちらが攻撃をすれば、反撃をするだろうが…。兵を整えるなら私が死んだ後にした方がよい、奴は一度国に帰るので時間はあるはずだ」

 笑みを浮かべ不吉なことをサラリと言ってのけた。

「…これから命懸けで戦われるというのに、随分落ち着いておられる…」

 マンフレートは半ば怪しむようにルーポトを見た。今日初めて会った、魔王を自称する男である。何か企んでいると考えるのも無理はない、とアールスはマンフレートの様子を見て思った。


(!?)

 その時気づいたのは、アールスがルーポトの言葉を概ね信じているということだった。アールスとてまだ短い付き合いでしかないが、実際に戦い(全く相手にならなかったが)、話をし、彼の挙措や態度を見る中で、味方ではないが一目置くべき存在であると考え始めていた。

 ナティアに来るまでの間も時折話をした。ワトビアも以前言っていたように魔道の話は実力の違いからか、あまり参考にならなかった。むしろルーポトの方がアールスやワトビアから、人間が使う魔道の工夫などについて興味深く吸収しているようだった。アンティノキアの生活についても聞いた。人間に比べ遥かに魔道は生活の中心に据えられているが、農民、商人、軍人、貴族もおり強ければいつでも地位を奪えるという剣呑な決まりはあるが、それ以外はそれほど生活様式は変わらないようであった。そしてルーポトが誇らしげに言ったのは、強いものに対しては戦いを挑み、地位も奪うが、自分より弱い者には挑戦されない限りこちらからは決して力を振わないという矜持が、アンティノキアにはあるという事だった。

 その話ぶりは実力差もあることから、こちらから見て傲岸に見えることもあったが基本的に率直であり、暗い企みはないように思えた。

 信用できる者と言うには認め難い、悔しいものがあったが、ルーポトに対するマンフレートを見てそのような考えに至ったことにアールスは自分自身も驚いた。

 ルーポトは睨みつけるように自身を見るマンフレートをひたと見つめた。


「ノマダスの王になった以上、それは覚悟せねばならんからな。まあ負けるつもりはさらさらない」

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