28.違和感
王宮の新しい結界が稼働を始めて1ヶ月が過ぎた。経過は順調で2人工分の余裕が生まれている。
今はまだ検証段階のため、いつも通りの勤務体勢だが、問題が無いようであれば本格的な運用に移り、宮廷魔道士団にも休みが増える見込みだ。
満足すべき結果に、アールスも胸を撫で下ろした。
しかし二、三日前からアールスは違和感を感じ始めていた。
結界自体に問題はないように思えた。後日不測の事態が起こる可能性はあるが、それに関しては新しい試みには付き物の事でもあるし、予測の範疇でもあり違和感の原因ではない。うまく説明はできないがそれは外からもたらされる様に思えた。
その違和感はアールスの中でゆっくりと増大しているが、根拠は全く無いため誰にも口外してはいない。
「今のところ経過は順調です」
アールスは結界の運用開始から今日までの報告書をワトビアに手渡した。
「ふん」
ワトビアがいつになく胡乱な目で書類を受け取り読み始めた。
「経過は順調、各国からの様子見の干渉もいつも通り、現在は今まで通りの人員で勤務しているから各員余裕ができている。結構な事じゃねえか」
何かいつもより覇気がないようにアールスには思えたが、それについては問いたださずに続けた。
「このまま行けば休みも増えて、負担も減り士気も上がると思う」
「ああ」
ワトビアはおもむろに席を立ち窓際に向かい外を眺めた。難しい顔をして腕を組み窓の外を睨み付ける。窓の下では街の人々が活発に動き回るいつも通りの風景が見えているが、彼が見ているのは遠方の山々の方だ。ワトビアの表情とは反比例するように、空は晴れ渡っている。
「なんか変だなおっさん、気になることでもあるのか。はっきり言えよ」
「…」
ワトビアは黙ってアールスを見、再び窓に目をむけ、首を傾げながらがしがしと頭を掻いた。
「いや〜、なんだかな」
そのまま頭をかきながら席に戻り、執務机に手を置き決まりが悪そうに言った。
「今のところ順調で大した問題もない。非常に結構なことだ。俺の立場から言うことは何も無いんだが…」
「何だよ」
ワトビアらしくない歯切れの悪さに多少イラつきアールスの口調に棘が出る。
「まあお前だから構わねえか。これは魔道士長としてじゃなく、単なる雑談として聞けよ」
「ああ」
「ここ最近なんかやなんだよな〜、なんか気持ち悪い。何がと言われても何かもわからねえ。とにかく気持ち悪い。そんな感じでよぉ、こんな事魔道士長の俺がいってもしょうがねえだろ?いらん波風が立つ」
「…」
アールスは驚いた。先ほどまでここに来るまでまさに自分が考えていたことだった。
「それは…どれくらい前から?」
アールスの問いかけにワトビアがおや?とでもいうように顔を上げた。
「…お前もか?」
「俺は2〜3日前からだ」
「勝ったな。俺は1週間くらいになる。ちょっとづつ気持ち悪さが増しているんだよな」
ワトビアが勝ち誇った様子でアールスに笑みをむけた。
「単なる偶然で、俺たちの思い過ごしかもしれん」
幾分いつもの調子に戻ったワトビアに少しの安心とイラつきが入り混じった口調でアールスが答えた。
ワトビアがガハハと笑いゆっくりと席についた。
「そうなんだよな。なんせ根拠がねえ。まあ見回りのついでに他の奴らにそれとなく聞いといてくれよ」
見回りの途中3人の同僚とすれ違った。根拠がないため非常に要領を得ない確認ではあったが、違和感を感じたものはいないようであった。中の一人には逆に最近激務だったから大丈夫かと心配までされてしまった。
彼らも優秀な宮廷魔道士である。やはり思い過ごしなのだろうかと、半ば自分を疑いながらしばらく歩き、一息つこうとバルコニーに出た。以前アンナと来てルーポトとあった場所だ。柔らかな風が頬を撫でる。手すりに体を預け、景色を眺めた。街の外に丘陵や森が広がっており、遠くの山々が霞んで見えている。ワトビアが窓から厳しい目で眺めていたのと同じ北の方向である。
ワトビアはアールスよりも早く違和感を感じていた。こちらの方向にその正体があるのかと見てみたがアールスにはわからなかった。
そのまま何の気なしに上方に視線を転じると上に伸びる尖塔や物見の塔がある。
「!」
物見の塔にルーポトがいた。
ルーポトも先ほどのアールスと同じく北の山々を眺めている。
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