27.魔族らしさ
「変わった様子はありませんね」
パルが不信感も露わに言った。
一行は慎重に時間をかけ、周囲を探ったものの、魔物や異変は何も見つからなかった。周囲では長閑な鳥の声が響き、背後に巨大な門が大きく口を開けているばかりだ。
「どうする?」
ナイルズが門を顎で示した。
「行こうぜ、どのみち今日はそのつもりだったんだ」
探索のうちに気力を取り戻したイプロスが拳を打ち合わせた。
「向こうだって、門番を倒されてどのみち開けられることはわかってたんだろう。だからこちらのやる気を削ぐが、罠を疑わせるために開けたんじゃないのか?」
「なるほど『空城の計』のようなものですか」
イプロスの言葉にパルはなるほどとばかりに顎に手をやり考え込んだ。
「空城の計」は城の門を開け放つことで、敵軍の疑心を煽る心理戦である。何か罠があるのか、兵を潜ませているのかと疑わせ時間を稼ぎ、その間に逃走するか、実際に兵を潜ませて敵を呼び込んから攻撃をするなど様々な策が考えられる。過去の戦史には「空城の計」により、敵軍の城への侵入を阻止した例もある。
しかしその策を用いる場合は概ね窮地に立たされた場合が多く、現在人間に脅威を与え続けている魔族がそのような事をする必要がないようにパルには思われた。この門を開けたところで、逃げるにしても、その先はノマダスである。下手をすればこちらの軍をノマダス本土に招き入れることになる。一方兵を潜ませ我々を迎え入れる手だとしたら…ともパルは考えたが、そうなると我々が迷宮をすんなり出ることができた事が不思議に思えた。体勢を整えるためにも我々ごと迷宮を破壊するか、復路に多くの兵を配置し時間を稼いでもよかったはずだ。
いや…もっとも不審なのは…。パルは眉根を寄せる。このようなやり方は…。
「でも自分で言っといて何だが魔族らしくないな」
イプロスが不意に言った。
そうなのだ。
魔族は基本的に策を弄しない。
いつも真正面から力任せに攻撃を仕掛けてくるのだ。陣形や戦術といったものをまるで考慮していないかのように、我先にと突撃し、膨大な魔力を存分に振るう。そのため戦場は乱戦、修羅場と化す。
戦術としては極めて単純である。もし魔族が緻密な策を使いこちらに対してきたらと考えると背筋が凍る思いがする。もう滅ぼされていてもおかしくないだろう。だが長い魔族との戦いの中で、そのような例は未だにない。
それが魔族との戦いの歴史、そして我々一行が戦ってきた経験としてパルは実感していた。
真正面から戦う。それが奴らなりの矜持なのか何なのかは分からないが、だからこそ我々人間が戦略・戦術を駆使し何とか対抗できているというのが現実であった。
空城の計というような「人間らしい」計略を魔族が使うとはパルにはどうしても思えない。…だが、魔王やそれに近い高位の魔族ともなると、そのような手を使うのか…。
そのとき、不意に肩に手を置かれた。パルが顔を上げるとイプロスがニヤリを笑っている。
「まず行ってみようぜ」
「…」
イプロスのあっけらかんとした顔にパルは苦笑する。情けない。見事に自分が空城の計にハマっているではないか。
「そうですね」
パルはイプロスに笑顔で返した。
ナイルズがそれをみてゆっくりを歩き出し、門を見上げた。
「ノマダスに酒はあるかなあ」
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