25.獣の論理
「強い…もの?」
レイムルは唖然として問い返した。
「ノマダスの王は世襲ではない。王になりたければ、正式に名乗りをあげ、倒し、ルーポトの名を奪えばよい」
わかりやすいだろう、とルーポトは微笑んだ。
「だ…誰でもなれるということですか?」
「強ければ」
あっさりとルーポトが答えた。
「それでは粗暴な者、人品卑しい者でも強ければ王になれてしまいます。それではあまりにも…獣の群れと変わらない…あ、いや、失礼!」
思わず呟いた言葉にレイムルは慌てに慌てた。しかしそれに対しルーポトはしばらく懐かしいものを見るような表情でレイムルを見、やがて笑い声を上げた。
「フフフ、言うではないか。確かに人からはそのように見えるのかも知れんな。しかし…そんな者は人間の王にもいくらでもいるだろう」
反駁したレイムルに冷たい笑みを向けルーポトは言った。このような表情はカール5世も初めて見る物だった。一気に部屋の温度が下がったかのような感覚に襲われた。
「…」
ルーポトの言葉は正しい。王族という煌びやかな権力の裏には常に血腥い陰謀が息を潜めている。子供のうちに担ぎ出され、操られているうちに孤独を深め、狂気を育んだ王。国民を一顧だにせず享楽に耽る王。自分の能力を過剰に評価し、国を混乱に陥れる王。人間の歴史を振り返れば、暗愚な王の話は枚挙にいとまがない。
「アンティノキアは強さがもっとも重視される。強い者がもっとも優秀であり、だからこそ王なのだ。その王が不満であれば倒せばよい」
そういうルーポトの表情はいつの間にか穏やかなものになっていた。
「倒すとは、『殺す』のですか?」
レイムルは恐る恐る訪ねた。
「戦ってこちらの方が強いと認めさせればよい。無論殺しても構わないが」
「陰謀や根回し、またはなんらかの手段で脅迫して強いと認めさせて王の地位を簒奪するというようなことはないのですか?」
「そんな者には誰もついてこない。アンティノキアは基本陰謀を強く嫌う。正面から戦うことこそ名誉だ。よしんばそれで王になったとしても、すぐに強いものに取って代わられる。獣の論理も馬鹿にしたものではないぞ」
野蛮にも思えるが存外すっきりとしているのかもしれない。とカール5世は考えていた。人間の場合は王位継承がすんなりと行かず、互いの陣営が必死になって情報を操り、時として血を流し、大義名分、国民の支持を勝ち取るために奔走する。
アンティノキアの場合は大義・国民の支持など関係ない。強さが全てであり強ければ誰であろうとすぐに地位を奪えるという、一代ごとに革命が起きるというような大胆なものだ。「強い」それがアンティノキアにとって大義であり忠誠を誓う唯一のものなのだ。
腕を組み床を睨みつけて考え込んでいたレイムルはゆっくりと切り出した。
「今はあなたが魔王、ルーポトでいらっしゃる。だとすれば先の魔王がイプロスに倒されたその後は、どのような経緯で王になられたのです!?」
ルーポトは黙ってレイムルを見つめ、そしてカール5世に視線を移した。
「…」
カール5世は考えの読めない表情でルーポトを見返した。
そういえば陛下は何の発言もされずずっと話を聞かれているだけだったな、とレイムルは不気味な沈黙が支配した部屋で考えていた。
「…なかなか鋭い質問だ。それについては時が来れば話そう。老師の宿題となさるがいい。それにそろそろ…」
ルーポトの言葉を切った直後扉が叩かれ、宰相タミルが入ってきた。状況を確認し、目を見開く。
「!ルーポト。…レイムル殿も」
「謁見の時間だな」
カール5世が席から立ち上がり身なりを整えた。レイムルは名残惜しそうに「また是非話を聞かせていただきたい」とルーポトの袖を取り訴えた。
よろしければ、評価・ブックマークお願いいたします。
励みになります。




