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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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24.学者と魔王

「ま…まさか、そんな…まさか」

 

 時期は少し遡り、新しい結界が着工して直後の出来事である。

王の執務室で動転して声を震わせているのは齢80にして魔道学の教鞭をとるレイムルである。


 その日はレイムルが王宮にやってきて、雑談をしに王の元を訪れた。

 話に興じるうち、カール5世は一つの決断をした。レイムルとルーポトを引き合わせてみようと。

 レイムルは長年王国に忠義を尽くしてくれており、信頼も厚い。年齢こそ離れているが気の置けない間柄である。アンティノキア、ノマダスの情報収集のためにも魔道とその歴史に詳しい彼の意見が聞きたかった。

 四方山話が一息ついたところで、カール5世は席を立ち、扉の前に移動し「ルーポト、来てくれ」とつぶやいた。ほどなく扉が開かれルーポトが静かに入ってきた。レイムルは立ち上がり「どなたかな?」と尋ねた。

 カール5世が現れた男の素性を告げた。


「ルーポト…アンティノキアの王…」

 そう言ったまましばらく言葉を続けることはできなかった。恐怖と驚きが混じりあい名状し難い混乱がレイムルを襲っていた。人間の世界を恐怖に陥れた魔王が目の前にいる。人である以上当然の感情だろう。

 しかし持ち前の磊落な性格と老練さから、立ち直ったのは一瞬であった。10年前から王宮をはじめ様々な場所を自由に出入りすることのできる実力。それは我々人間に危害を加える手間すら要さぬほどの力を持つ存在であることを、即座に理解したのだった。


「老い先短いワシからすればなんという暁光。長生きはするものですな」

 レイムルは目を細めガハハと笑った。

「信じてくれるか、レイムル」

 レイムルの反応を息をつめて注視していたカール5世もさすがに驚いて尋ねた。

「信じましょう。陛下はそのようなつまらない嘘をつく方ではございません。魔王と直接相見えることができるなどこんな幸運な学者はおりますまい。ワシはレイムルと申す。この国で魔道を教えておるものです」

 レイムルはルーポトの前に進み寄り、握手を求めた。

「なかなか肝の座った御仁だな」

 ルーポトはにこりと笑い手を握り返した。

「あなたは魔道や歴史の研究家からすれば、宝の山、歴史の生き字引のような方だ。聞きたいことは山ほどございます。陛下、宜しいのですか?」

 もはや天下のシュマルハウト王などそっちのけの様子で目を輝かせているレイムルにカール5世は苦笑し頷いた。考えればレイムルは魔王と握手をした歴史上初めての人間なのかも知れない。これが歴史の瞬間というものなのかと、カール5世はある種の感動を持って眺めていた。

 

「しかしあなたからは魔力を全く感じませんな。握手をさせていただいた時もそうでしたが」

 レイムルが不思議そうにルーポトに言った。

「人間の街を旅するため制御しているうちにこれが自然になった」

 レイムルの目が溢れんばかりに見開いた。

「制御!なんと…。ここまでできるものなのか。ワトビアでもここまでは行きません。あやつでも多少の魔力は出ますからな」

「そんなにすごいことなのか?」

 カール5世が尋ねた。

「すごいです。多少でも魔力を持っていたら、心得のあるものなら普通すぐわかります。ましてやワトビアを相手にしないほどの方なら、魔道士から見れば、威圧感を感じるほどの魔力を放っていてもおかしくありません。陛下から知らされなければワシはこの方が、魔力を持っているとは思わなかったでしょう」

 レイムルは夢中になって捲し立てた。魔力は痕跡が出やすく制御が難しいため、実は間諜や斥候に向いていない。相手方に魔道士がいれば見つかりやすいのだ。もしルーポトほど制御できれば、魔道士を使った戦術は大きくわかるだろう。


「そうじゃ。これもお聞かせ願いたいのだが」

 興奮冷めやらぬ様子のレイムルが息も荒く尋ねた。ルーポトは鷹揚に「なんなりと」と受けた。

「それでは…。あなたは和平を求めておられるとのこと」

「そうだ」

「あなたは我々を憎んでいないのですか?この国の英雄イプロスが200年前あなたの国の王を倒したのです。その後即位されたあなたは先代アンティノキア王の御子息、王子ということでは?人間がお父上の仇では?」

「…」

 王族というものは父王が死んだからと言って悲しむ・復讐に燃えるという簡単なものではない。邪魔なつかえが取れ権力が目の前にぶら下がってきたと北叟笑むような場合もある。

 それはレイムルとて重々わかっての上の質問だろう。カール5世がそのように考えているうちにルーポトが口を開いた。

「私自身は特に憎んでもおらん。そして…そうか…お主はアンティノキアの王がどのように決まるが知らんのだな」

「そうです。あなたが即位されたのも我々にとっては200年もの昔、その前の王に至っては成文化された書などはどこにも残っておりません。アンティノキアの政の仕組みは今もよくわかっていません。よろしければ是非お聞かせ願いたい」

 レイムルが目を見開き慌ただしく捲し立てた。新しい知識の気配に目が血走っている。そんなレイムルを尻目にルーポトはなんでもないことのように答えた。


「簡単だ。強い者が王、ルーポトとなる」

 

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