19.実験の許可
「これをアンナが」
しばらくの間書類を熟読していたカール5世が呟いた。
「アンナ様が計算を行い、宮廷魔道士のアールスという者が企画書としてまとめたものです」
宰相のタミルが執務机を挟んで立って報告を行った。その隣にワトビアも威儀を正して立っている。
「アールス。ルーポトと接触した男か」
「そうです」
ワトビアの答えにカール5世は書類に目を落としたまま何やら考えている風だったが、やがて書類を置き苦笑した。
「さっぱりだ。今の結界より歪な形になるということしかわからん」
身もふたもない感想にタミルも思わず笑い声をあげる。
「ハハハ、私も正直よく分かりませんがこの形にすることで、魔力が節約でき、魔道士の負担が減るとのことです」
「そうか。ワトビア。お主がみて問題ないのだろう?」
カール5世がワトビアに目を向けた。
「試す価値はあるかと思います。実証実験を希望しております」
「お主が良いならやってみよ。任せる」
カール5世はあっさりと言った。もう少し説明を加えようと身構えていたワトビアはいささか拍子抜けした。ワトビアとしても魔道士長として結界の大幅な形状の変更と言うのは今までの仕事としても大きなものである。あまりにも早い判断に思わず問い直す。
「よろしいのですか」
「専門家がいいと言うのなら、門外漢の私が口を挟むこともあるまい。お主のことは当然信頼している」
「もったいなきお言葉…」
ワトビアはひざまづき、首を垂れた。
わからないことはわからないと正直に言い、信頼できる臣下に任せることができる。この度量の広さがさらなる尊敬と忠誠を得るのだろうとタミルは感服していた。それは仕事に関しては重圧にはなるが何よりやりがいともなる。
カール5世が書類に裁可の印を押しタミルに手渡した。タミルもそれにサラサラと署名し、ワトビアに目を向けた。
「陛下と私が確認しました。ワトビア殿、実証実験を許可します」
「拝命いたします」
ワトビアは書類をおしいただいた。
それと同時に扉が叩かれ、ルーポトが音もなく入ってきた。
「!」
タミルは驚きビクッと体を震わせたが、カール5世とワトビアは慣れているのか、わずかに目を開いただけであった。
「ようやく戸を叩くことを覚えたようだな」
カール5世が苦笑する。
「まあ世話になっているからな。流儀を合わせた」
ぬけぬけとルーポトは言い、王の前にやってきた。
「お主もしばらく現れなかったな。何をしていた?」
「子供たちと算術や魔道の授業を受けていたぞ」
「授業…」
ルーポトの答えにタミルが唖然として呟いた。
「算術は知らねえが魔道の授業なんて、あんたの参考になるのかよ」
ワトビアが呆れ顔で聞いた。国を危うくできるほどの魔力を有する存在に授業の必要があるのかと素朴な疑問だった。
「大いに。人間は少ない魔力を効果的に使うため、いろいろ工夫を凝らしている。我々のような力任せではなくな。とても面白い。これを覚えればアンティノキアもより強力になる」
「やめてほしいんだが…」
タミルは悲痛な顔で言った。ルーポトは本当に平和を望んでいるのかと疑わしくなる発言であった。是非止めたいがどうにもできないというのが恐ろしいところだ。
「まあよい。今日は提案に来たのだ」
タミルの訴えをさらりと無視し、ルーポトは言った。
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