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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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17.監視砦

 物見塔から遠眼鏡を片目にあてがい、無精髭の男は伝声管に向かって声をあげた。しばらくすると詰所から男達が5人、ゾロゾロと出てきた。

 ここはノマダスの南端、クロム峡谷。アンティノキアの動向を監視するため、シュマルハウト王国が建てた砦である。 


 砦は峡谷の間に楔を打ち込むように建てられている。雲が切れ晴れ間がのぞくことはあまりなく、峡谷から吹きおろす風が始終砦を叩いている。そんな風をものともせず、翼を大きくはためかせながら近づく影が遠眼鏡の丸い窓に映っている。その姿は見る間に大きくなり、すぐにバサバサと鋭い音をたて砦に達した。

 異形の姿であった。ドラゴンのような姿をしており、水牛のような長い角。太く強靭な腕を持っており、鋭い爪が生えている。トーガのような布を巻き付けた衣服を纏っており、衣類の下から覗く尾の先に鋭い棘が何本か。大きな翼を動かし滞空している。翼から生じる風で、砦の砂埃が舞い上がる。


「よお、バラドラ」

 砂埃に目をすがめ、砦の男は呼びかけた。異形の生物はその声に応えるように、砦の上に地響きでも起こりそうな勢いで着地した。生物の身長は前に立つ砦の監視兵の倍、3エル以上もある。

「ゴードン」

異形の生物は低く野太い声で答えた。そして「持ってきたぞ」と木の幹ほどもありそうな太い腕を動かし、ゴードンと呼ばれた監視兵の手に一抱えほどの籠を乗せた。鮮やかな赤い果実がたくさん入っている。

「おおこれがこの前言ってたやつか!わざわざすまねえな」

 ゴードンは喜色を浮かべ礼を言う。異形の生物に対し全く臆する様子はなく、友人であるかのように振舞っている。

「ひとの口に合うのかは知らんが、毒ではないはずだ。皮を剥いて食べろ。剥かなくても食えるが」

 バラドラは淡々とした口調で答えた。バラドラが持ってきたのは「ラプル」と言う果実でノマダスに固有のものらしい。前の雑談の際に話しに出、ゴードン達の希望により持ってきたのだ。

「早速いただくか。残りは国に送れるか?」

 ゴードンは隣に立つ男に話しかける。

「明日バネルが来るはずだ。それから空間転移を中継して合わせて10日ほどだろう。保存方法は?」

 男はラプルを興味深げに眺めながら、バラドラに尋ねた。

「その程度なら1つづつ紙にでも包んでおけば良い。冷やしておけばより新鮮な状態を保てる」

 男たちの上から低い声が答えた。

「それはバネルが術でなんとかしてくれるだろ」

 ゴードンがいい加減に言った。バネルは10日に1度程の割合で山脈の麓にある砦から情報伝達の為に砦にやってくる魔道士だ。砦の情報は逐一バネルから次の魔道士、またその次と何段階かを経て、宮廷へ届けられる。


「うまいなこれ」

 ゴードンは雑に剥かれたラプルを齧り、雑な感想を述べた。

「それはよかった」

 表情は乏しいが幾分笑みを含んだ声でバラドラは答えた。四角い木の台の上に座っている。ゴードン達が適当に作ったものだ。

 この砦は6人体制で警備が行われており、任期は3年、1年ごとに2人が入れ替わる。ゴードンはこの砦の古株で3年目となり、あと半年ほどで任期を全うする事になる。

 バラドラがクロム砦の人間と交流を持つようになったのはおよそ50年前からのことだ。当時はさぞかし大騒ぎになった事だろう。ゴードンも今では慣れたものだが、砦に着任し初めてバラドラと相まみえた時は、歯の根も合わぬほど震え上がった。


「これはいい土産になるだろう。しっかり報告書にも書いておくぜ、あんたみたいな友好的なアンティノキアもいるってことを。いつか他のやつにも会ってみたいもんだ」

 今までバラドラ以外のアンティノキアが砦に来たことはなく、バラドラだけが不定期にこちらに来ていた。砦ではバラドラの存在についても議論されているが、どのような立場の者なのか未だ分かっていない。

「どうかな。ノマダスは和平を望んでいる。機会があればそうしたい」

 バラドラは答えた。

 時折「ノマダスは」などと大きな主語で語るためただの村人というわけではあるまいとゴードンは考えている。

「いつかアンティノキアとうちの国が仲良くなる日なんて来るのかねぇ」

 もう一人の男がそう言って口からラプルの種を吐き出した。

「そう簡単にいかんだろうな。しかしそうなれば良いな」

 腕組みをし、さらに遠い目になりバラドラはつぶやいた。

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