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うろつく魔王  作者: こたつ布団
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103.和平交渉

 交渉はまず終戦をどのようにするのかが議題となった。

 シュマルハウト側としては穏便に済ませたい内容であり、賠償や不平等な合意をしないことが最優先とされていた。


 タミルと官僚たちは、ノマダス側の様々な言い分を想定し協議していた。最悪のものとしてはノマダスの勝利としてノマダス有利の条約を結ばされると言うものだ。

 人間の連合軍とノマダス王国の戦争は厳密に言うと継戦中である。一般的な認識では英雄たちが魔王を倒し、ノマダス王国が終戦し交渉をしないという書簡を各国に送ったことで、連合軍の勝利とされているが、明確な合意が成立しているわけではない。人間側は終戦合意の書簡を送ろうにも、ノマダスへ届ける方法もなく、アンティノキアの兵も戦場を離れた後であった。伝達手段を持たぬまま時が過ぎた。

 そのため、未だ終戦は成立しておらず、戦争は継続中という解釈もできる。

 そこをノマダス側に突かれるとまずい。そうなるとシュマルハウト王宮に侵入したルーポトは自ら攻め込み、シュマルハウトに降伏を迫ったとも取れる。それが犠牲者を極力少なく抑えるむしろ人道的な方法だと強弁されれば、非常に苦しい立場に置かれるのだ。

 

 シュマルハウトでのルーポトの様子からは、そのような事を言い出し、交渉を紛糾させることはないだろうとタミルは考えてはいるが、宰相としては可能性を排除することはできない。官僚たちとも重要な議題として協議されたが、その場合連絡方法を全く閉じてしまったノマダスの非を訴えるしかあるまいという苦しい結論だった。


 まずタミルが口火を切った。

 ノマダスも終戦の宣言を守り200年が経ち、人々の記憶からも当時の戦争のことは薄れ始めており、今や、勝敗や過失に囚われることなく、互いに無条件で終戦を迎えるべき時であると考えたい_。

 対面に座るルーポト、官僚たちに視線を送りながら、こちらの要求を伝えた。アールスは席の端に所在なく座り、書記を任されたファーミアはその隣で必死になってペンを走らせている。ポポロは交渉には参加せず、外で控えている。

 ノマダス側はどういう要求をするのか。タミルは身構えて待った。


「それで良い」

 ルーポトは机に肘を置き、タミルを見てあっさりと言った。

「…よろしいのですか」

「良いが」

 拍子抜けしたように答えたタミルにルーポトは笑って言った。

「タミル殿はこちらが法外な要求を突きつける懸念をしていたかも知れんが、ノマダスは元よりそのつもりだ。それではシュマルハウト王国とノマダス王国は終戦、という事で良いか」

「ええ、こちらとしては言う事はございません」

 タミルは無表情で答えたが内心ほっと息をついていた。


 シュマルハウト王国とノマダス王国の終戦は交渉開始間も無く合意された。

 

 夜になり、両国の交流を深めるための会食が行われた。ノマダス側は官僚たちを含め10人、シュマルハウト側はタミル、官僚たちと主だった兵士長を含め20人程の小規模のものだ。その他の兵士たちは会場の外、それぞれの天幕や野外で用意された食事を囲んでいる。

 初日の最重要とも言える交渉はうまく運んだため、会場は比較的和やかな雰囲気となっている。明日からも、交易や通貨など、多岐にわたる交渉は控えているが、皆込み入った話は控え、両国の文化や風景などを語り合っている。

 アールスは官僚たちに囲まれていた。ノマダスを知るただ一人の人間である。アンティノキアの人々の暮らしや実情を聞かれ、わかる範囲で答え、アールスもしばらく留守にしている王都の様子を聞いた。王宮の防御結界は順調に機能していると聞き、安心した。

ファーミアも焦りながらもどうにか受け答えをし、ポポロは如才なく兵士長たちと話している。


「アールス殿」

 会話が一段落し、飲み物でも取りに行こうかとアールスが思った時に背後から声をかけられた。

「タミル様」

 アールスは恐る恐る振り向き頭を下げた。ノマダスの領主になったとはいえ、自分はシュマルハウトの人間という意識は未だに強い。そのシュマルハウトの宰相が目の前にいる。王宮に勤めていたため、タミルの姿を見る事は度々あったが、雲上人として自分とは関係のない存在と捉えていた。ノマダスの代表の一員として和平交渉の場に来た以上、話す機会はあろうとは覚悟していたが、どうしても戸惑いは隠せない。

「領主様がそんなにへりくだる必要はないよ」

 そんなアールスの気分を察したのか、タミルは柔らかい笑みを浮かべ、両手に持ったグラスの一つを差し出した。

「あ…ありがとうございます。そうは仰いますが、宰相様と口を聞くことなど夢にも思ってませんでしたから」

「ふふ、うちの陛下にも会い、ノマダス王にも覚えの高い。そんな人間はいないぞ。もっと堂々とすればいい」

 ぎこちないアールスの背中をタミルが叩いた。


「ところで、アールス殿」

 タミルはグラスを傾け、伺うようにアールスを見た。

「何でしょう」

「怒ってないか?」

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