99.孤児院
「ワトビアだ!」
子供達が歓声をあげ駆け寄ってくる。
「ワトビア様だろうが、ガキども。一番偉い魔法使い様だぞ」
ワトビアは笑いながら片っ端からガシガシと子供たちの頭を撫でてやった。
ここは王都ファルスの下町にある孤児院である。教会と併設されており寄付や支援によって賄われている。アールスがかつて暮らしていた場所で、ここで起こった出来事からアールスはワトビアと出会い、アールスは魔道の素養を見出され、今に至るのであった。そこからワトビアも縁を持ち、時折顔を見せている。
「アールスは来ないの?」
一人の子供がワトビアの袖を引っ張り尋ねた。ワトビアはしゃがみ込み、子供に顔を寄せた。
「アールスは忙しいんだ。すまねえな」
「ワトビア様」
子供達の後ろから姿を表したのは一人はプルハという名の小柄で年配の女性。もう一人は背が高く赤い髪を無造作に後ろに束ねたミーナという若い女性だ。
「ああ、悪かったな。最近色々立て込んでてなかなか来られなかった。元気か?」
「おかげさまで皆元気にしております」
プルハがうやうやしく頭を下げた。
「そうか、そりゃ何よりだ。これは近所で買ってきた菓子だ、ガキどもに」
ワトビアは片手に下げていた袋をミーナに手渡した。ミーナは「お菓子をもらったよ。ワトビア様に礼を言いな」と呼びかけると子供たちは歓声をあげ、次々と礼を口にした。ミーナはそのままお菓子を掲げながら子供たちを別室に誘い、すぐに引き返してきた。
ワトビアは懐から包みを取り出しミーナに差し出した。
「そしてこっちはアールスに頼まれてるいつものやつだ。あと俺からも…大した額じゃないが」
「有難うございます」
ワトビアが懐から出した包みを大事に受け取った。アールスは孤児院を出、魔道士として収入を得るようになってから、毎月寄付をしている。ワトビアはナティアで別れる前にアールスに頼まれ、毎月アールスの収入の中から寄付を届けているのだ。ワトビアも多忙なため、毎月欠かさず行くことはできないが、そんな場合は孤児院に使いを出している。
「あの子はまだ出張ですか、ワトビア様」
ミーナが眉に皺を寄せて尋ねる。
「そうだ。まだだいぶかかりそうだ」
「ナティアって言ったっけ?遠い僻地なんでしょ」
「ああ、そこで武者修行してるよ」
ワトビアはあいつ今頃何やってんだろうなと視線を宙に向けた。この二人に魔族の国に行って領主をしているなどと言ったら腰を抜かすだろうなと考えた。プルハなどは寝込んでしまうかも知れない。二人ともおしめの頃からアールスを知っている。やんちゃという言葉では生ぬるいほどの悪ガキであったが、この二人にだけはアールスも言うことを聞き、彼女達も大層アールスを可愛がった。 そんな二人に当分戻れないかも知れない、と伝えるのはワトビアとて言いづらかった。
「ねえワトビア様」
ミーナがスッと近づきワトビアを見上げた。
「あの子なんかやらかしたんじゃないの?貴族をぶん殴って僻地に飛ばされたとか。それならまだいいけど本当はとっくにクビになっててワトビア様が代わりに寄付してくれてるとか…………………大丈夫よね?」
「これミーナ、なんてこと」
プルハは飛び上がったが詰め寄られたワトビアは破顔して言った。
「そりゃ大丈夫だ。寄付だって歴としたアールスの収入からだ。大事に使ってやってくれよ。実際あいつはよく務めてるぜ、出張前はアンナ姫とも仕事をして陛下だって名前を知っている。ナティアも飛ばされたわけじゃなくて重要な仕事で行ってるんだよ」
「アンナ姫!」
「陛下!」
二人は目を丸くした。
「…嘘でしょ。そんなこと一言も言わなかったわあの子」
「…立派になって…」
信じられないミーナに対し、プルハは感極まり手で顔を覆った。
まさか泣かれるとは思っていなかったので、ワトビアは慌てたが、ミーナは苦笑してプルハの背中をさすった。
「この頃プルハはすっかり涙脆くなってるのよ。しかし凄いわね、あの悪ガキが王様や姫様とお目もじしているだなんて」
「ミーナに鍛えられて肝が据わってるのか、なかなか優秀だぜ。あいつには面と向かっては言わねえが」
なにしろあいつは魔王とも知り合いだぜ、とワトビアは心の中でほくそ笑んだ。
「何言ってんのよ。まあでも元気にしてるならいいのよ」
プルハがワトビアに茶を運んできた。礼を言い口をつける。
ワトビアはアールスも和平交渉に来るのかな、と考えていた。タミルや官僚たちも近日中に王都を出る予定である。
あと一月もしないうちに和平交渉が始まるのだ。
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