9.郊外の丘にて
「それでどうなったんだ?」
アールスは話をせかすように尋ねた。一滴も手をつけていない茶はすっかり冷めてしまっている。
「結果宰相の提案で奴の腕試しをしようということになった」
ワトビアは肩をすくめ、苦笑まじりに答えた。
「は!?どう話し合ったらそうなるんだよ」
「『ギトー殿のいう通りお主は常識はずれの実力を持っているのだろうが、こちらとしても王の執務室の侵入者を放置するわけには行かない。当然拘束、処刑ということになる』と宰相は奴に言った。無論本気でできるとは思っちゃいない。だが奴の実力をしっかりと見たい。結果拘束を名目にした…要するに腕試しだ」
なんだか回りくどい話だが、国としてはそういう体裁が必要なのかもしれない。半ば呆れながらアールスは考えた。
「で、奴は承知したのか?」
「暇だからな」
ワトビアは後ろ手に手を組み笑いながらこともなげに言った。アールスが身を乗り出す。
「ギトー様が戦ったのか?サカキ将軍?」
「俺だ」
「あんたが!?」
アールスは驚き思わず声が上がる。
ワトビアは話を続けた。後日王宮から一里程離れた丘に天幕が張られ、カール5世、宰相、ギトーの立ち会いのもと、ルーポトとワトビアは戦った。ワトビアは当時から戦闘力と判断力を評価されており、白羽の矢が立ったのだ。当日突然呼び出され、戦えと言われた。
後日侵入者に郊外の丘に来てもらい拘束・処刑の作業とはいかにも馬鹿馬鹿しいことであったが、ともあれそれは実行に移された。
「来てみたら奴がいて、『存分に来い』などと抜かしやがる。陛下とギトー様を見たらうなずかれたので、それならと全力でやった。結果はおまえにもわかるだろう? 奴は現在も余裕綽々で本を読んでやがる」
ワトビアは当時を思い出したのか、腹立たしげに吐き捨てた。
「歯が立たなかったか」
「立つも立たねえもねえよ、全くだ。なんせ陛下の前だぜ、死ぬ気でやってんのに、蚊にさされた程にも効きやしねえ。それだけじゃねえ、戦闘中にふと姿を消したとおもったら宝物庫にある筈の国宝の宝珠を持って現れたり、『ある人物の部屋から持ってきた』と言って淫媚な絵の描かれた本を見せびらかした。宰相は急に挙動不審になり、陛下は『ほう』と目を輝かせ…とにかくやりたい放題だ。そこまでされたら実力については信用するしかあるまい」
淫靡な絵はともかくとして宝物庫は書物庫に並び厳重な警備を敷かれている場所だ。そんな場所を戦闘中に出入りするとは無茶苦茶である。
「で、もうどうしようもねえって事であきらめて放置だ」
ワトビアは投げやりに言った。
「それからは時折陛下の話し相手になったりしているらしい。俺もたまに会う」
「そうなのか!?」
昨夜から驚いてばかりである。
「折角すげえ実力の奴がいるんだから、話を聞かなきゃ損だしな。しかし知恵を借りようとしても実力が違いすぎてどうも参考にならねえ。まあ呼べば来てくれるんで便利な魔王様だがな」
魔王を便利呼ばわりするワトビアにアールスは苦笑した。
「そういや昨日あんな事があっては警備の効率化の方法なんざ、何も考えられんかっただろう?」
ワトビアは仕方が無いと言う顔で尋ねた。
「まあな、俺もあまりの実力を見せつけられたので、いっその事聞いてみた」
アールスは一口冷めたくなった茶をすすり答えた。
「ほう、いい判断だ。奴はなんか言ってたか?」
ワトビアは破顔してアールスに先を促した。
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