08 五代目勇者
同時に狙われた。
『堅牢』を返せばユーリは死ぬ。
返さなければ死ぬのはラルカだ。
「まだだ!」
ユーリ決断しラルカへ与える。
『堅牢』ではなく。
「足場をラルカへ!」
空中で躱すことの出来ないラルカの足元に一メートル四方の足場が出現する。
「これならっ」
与えられた足場で踏み、再び跳躍するラルカ。
ラルカが受けるはずだった拳を、一身に受け止め粉砕される足場。
「くっらええええええ!」
全力で振り降ろされた大槌がオーガの頭部を押し潰す。
倒れ込む巨体を蹴り、さらに跳躍。
足場を粉砕したオーガの拳が再びラルカを襲う。
しかし、ラルカは余裕を浮かべその身に打撃を受ける。
既に『堅牢』は返却済み。
「サイドががら空きだ」
『堅牢』で生き残ったユーリは、一撃を受けた勢いのままラルカの獲物へ肉薄し、オーガの肉と骨を断った。
先刻までユーリと対峙していた一本角が固唾を飲み込み後ずさる。
「ツッチィィスマァァアッシュ!」
飛ばされたラルカが木を利用して一本角へ接近し、会心の一撃を放つ。
恐怖に支配された最後の一体は、逃げることもままならずあっけなく没した。
「ラルカ、無茶したな?」
「えへへ、バレちゃった?」
ラルカの意思で鎖を経由し『堅牢』を与えた件だ。
「お互い様だよっ」と返すラルカに「ぐぬぬ」とユーリは言葉を詰まらせる。
「それにしてもビックリしたよ急に足場がでてきたんだもん!」
「咄嗟に思いついたんだ」
「なんだか空を歩いてる気分だったよ!」
ラルカが楽しそうに跳ねていると、森の奥から声が届く。
「おーい! 狩りは終わったかー?」
先刻ユーリたちがゴブリンから助けた坊主男が木漏れ日を反射させながら駆け寄ってくる。
「さあさあ、腹も減っただろう。飯、用意したぜ」
「わーい! ユー行こうよ!」
「いいの?」
「水くさいこというなよ。命の恩人をたっぷり歓迎するぜぇ!」
激戦の消耗もあってか、ユーリたちは坊主男の礼を受け入れることにした。
▽
▼
十数分歩いたところで「この洞窟の奥だ」と坊主男。
等間隔に配置された松明がぼんやりと照らす中、ユーリたちは洞窟の奥へと進む。
「えらくキレイな断面だ。自然に出来たとは思えないな」
洞窟には似つかわしくない切り取られたような壁面にユーリは疑問を持つ。
「怪我しちゃいけねぇからよ。丁寧に磨いたんだ」
「気が遠くなる作業だな」
度を過ぎた几帳面さに目眩を覚えるユーリの横で、今度はラルカが口を開く。
「ねぇねぇ、おっちゃんはゴブリンより弱いの?」
「もちろん強いさ。あと、まだ二十代なんだ、お兄さんと呼んでくれるかな?」
「ふーん。お兄さんはなんで捕まってたの? ゴブリンより強いのに」
「後ろから襲われたんだよ」
ラルカの純粋な疑問がユーリの警戒心を高めた。
よく考えてみればおかしなところなのだ。
ゴブリンの知能は高くない。
たまたま背後から襲う場合はあるが、オーガのように戦略的に背後をとるなんてことはしない。
冒険者が殺された惨劇は、三人もの死角から、ゴブリンが同時に襲いかかり、警戒をしている二人の冒険者を殺し、坊主男のみ拘束したということになる。
知能の低いゴブリンがだ。
「あり得ない」
極めつけは冒険者たちの傷。
冒険者たちについていたのは切り傷だった。
ゴブリンが使っていた武器はこんぼう。
男の腰にはツタを切った短めのナイフ。
答えは一つだ。
「お前が殺したのか」
「なんだ、バレたか」
ユーリと坊主男は構える。
「なんで!? 戦うの!?」
「冒険者たちを殺したのはコイツだ!」
「え! そうなの!?」
「ちょっとトラブってガキどもを殺したんだが、背後からゴブリンに襲われたんだ。あんたたちが助けに来てくれてよかったぜ。みんな! 出てこい!」
坊主男の一声が洞窟に響き渡る。
返事はなかったが、横穴から人相の悪い男たちが姿を現した。
「十人ちょっとか。まずいな」
熊の毛皮を被った男がユーリへ近づく。
顔は見えない。
「帝国の遣いって訳でもなさそうだな」
あごひげを撫でながら熊男はしばらくラルカをみて、再び口を開く。
「コイツは苗床にする。連れていけ」
指示と同時に男たちがユーリたちに襲いかかる。
回避と牽制でなんとか凌ぐが、苦しい状況だ。
(拘束が目的だと『堅牢』は使いづらいな)
「ユーこの人たち変だよ! いるのにいないよ!」
ラルカがボケたわけではない。
ユーリも感じていた。
目の前にいるが全員気配がないのだ。
「全員が『気配隠蔽』のスキル持ちなのか?」
「――ボス! 『与えるもの』でさぁ!」
「鑑定された!?」
『鑑定』と『気配隠蔽』の同時発動にユーリは混乱する。
魔物などはスキルを複数所持する場合がある。
しかし、人間は一つが限度。
「一体どうなってるんだ」
答えが出ないまま二人は拘束されてしまった。
▽
▼
「あ、誰かきたよ」
洞窟のさらに奥へ運ばれ数時間が経過した頃、坊主男が様子を見にきた。
辺りに誰もいないことを確認した坊主男は、ユーリの頭を持ち上げ嬉しそうに話し始める。
「呆気なかったな。俺を助けたときはもっと良い動きだったぞ?」
オーガ戦で負った傷が疼く。
「何が目的だ?」
「お前らをゴブリンと交尾させるのさ。そんでゴブリン軍団を作って帝国を乗っ取るんだ!」
「バカな話だ。ゴブリン程度で帝国は落とせないよ」
「バーカ、バーカ」
坊主男は「待ってました」と言わんばかりに話を続ける。
「上位種に存在進化させるのさ。お前らを襲ったオーガとかに――ガッ!」
「消えたいのか? 喋りすぎだ」
突然現れた熊男が坊主男の首を押さえ込み、死をちらつかせる。
「ずみ……ま……ぜっ」
視線だけをユーリに向け熊男は問う。
「余計なことを知ったな。今すぐ死ぬか?」
「そうだな、休憩もすんだし帰るよ」
一撃。
ユーリの足が熊男の顔をとらえる。
「どうやって拘束を……って」
坊主男は腰のナイフが無くなっていることに気づいたようだ。
「逃げるぞ! ラル――」
「ユー、どうしたの!?」
動きを止めたユーリは、熊のフードがとれた男の顔を凝視したまま言葉をこぼす。
「――――五代目勇者、ダグラス」
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