07 鬼の森
装備を整えた次の日。ユーリたちは東の森へ来ていた。
勇者になるため国益の高い依頼をこなしたいが、後顧の憂いを断つためある依頼を受けたのだ。
「ここだな」
鞄に入った依頼書の内容は、街の東に位置する森の魔物退治である。
ユーリがずっと守ってきた街道に現れる弱い魔物は、この森から発生していた。
ずっと根本を叩きたいと考えていたユーリだったが、D級やC級も巣くっているため、実力的に手をだせなかったのだ。
しかし、今はラルカと一緒だ。
しかもドンピシャの依頼書があれば収入にもなって一石二鳥。
「いよいよツッチーの出番だね!」
「ツッチー?」
大槌をかかげ「この子の名前」とつぶやく。
「た、楽しそうで何より。おっと、早速ゴブリンだ」
ユーリは木の影からゴブリンの群れを発見。
数は7体。手にはこんぼう。何かを囲んでいる。
「何してるのかなぁ?」
「気持ちの良いものじゃないぞ」
ゴブリンの隙間から見えるのは首のない若い男女の亡骸だ。
装備品から冒険者と推測される。
すぐそばに拘束された男が我慢できずに叫ぶ。
「ち、近寄るなあ!」
「グキャキャキャ!」
恐怖を浮かべる人間が可笑しいのだろう、ゴブリンは小躍りをはじめた。
「助けに行かないの?」
「一網打尽にしたい。ラルカ聞いてくれ」
「おい! こっちだゴブリンども!」
ユーリはゴブリンの前に姿を表した。
ゴブリンより速く、拘束された男が反応する。
「た、助けてくれ!」
「ギャキャッ」
ゴブリンは全員でユーリを取り囲む。
舌なめずりをするゴブリンとユーリの距離が縮まっていく。
手をのばせば届く距離にニタニタと笑うゴブリンの顔が近づいた。
「今だ!」
「――――はーいっ!」
ユーリが伏せると同時。
草影から現れたラルカが大槌を振るう。
二つ。ゴブリンの首が跳ぶ。
異常を察知したゴブリンはユーリから視線を外してしまう。
更に三つ。
刀の通り道にあった首がバターのように裂ける。
愚かにもユーリへ視線を戻したゴブリンが、こんぼうを振り上げた。
しかし、振り下ろされることはなかった。
最後の二つが大槌によって潰されたためである。
「ツッチーつよーい!」
「刀もとんでもない切れ味だ」
オルトロスの報酬を半分以上注ぎ込んだが、良い買い物だったとユーリは確信する。
「おい。助けてくれっ」
「ご、ごめん」
感動にふけるユーリが、拘束された男から急かされる。
右腕に絡み付いた拘束用のツタを切ると、男は「後はなんとかなる」と自前のナイフで残りのツタを切断した。
自由を取り戻した男は、恥ずかしそうに丸坊主の頭をかいた手で握手を求め、さらに話し始めた。
「ありがとよ。助かったぜ。もう少し早けりゃコイツらも無事だったんだが……っとあんたたちを責めてる訳じゃないぜ」
「まあ、事実だからね」
切り傷だらけの亡骸から遺品を回収しながら、ユーリは心のなかで詫びる。
「ところでよ。近くの隠れ家に来てくれないか? 礼がしたい」
「気持ちは嬉しいけど魔物を狩るのに忙しいんだ」
「そんなこと言わずによ」
「ダメだ。また被害者が出る前にできるだけ狩っておきたい」
「そーかい。なら狩り終わってからならどーだ? 近くで休めるなら悪い話じゃないだろ?」
「それなら良いけど。結構かかるよ。腹が立ってるんだ」
なかなか引き下がらない坊主男に根負けしたが、人間の命を奪った魔物に対して、怒りがおさまったわけではない。
「なら決まりだ! またここでな」
坊主頭が嬉しそうに輝く。
「ちょっと! 森の外に送るよ!」
「大丈夫大丈夫!」
「さっきまで死にかけてたの忘れたのか?」
最後の言葉が届く前に坊主男は森へ消えていった。
「ツッチースマッシュいい名前!」
一方のラルカは武器と相談し技名を決めたようだ。
▽
▼
狩りが終わる頃には日が昇りきっていた。
戦果は、ゴブリン五十八体、ホブゴブリン五体。
「これで街道被害はかなり減るはずだ」
「ねぇねぇ、ゴブリンはなんで人を襲うの?」
「そりゃ、生きるためじゃないか?」
「じゃあ、人間とあんまり変わらないんだね」
「しっ! 何かいる」
視線の先には木をかき分ける鬼の姿があった。
三メートル弱はあろう巨体の頭部に生えた二本の角が、力強さを象徴している。
「オーガだ」
「どれくらい強いの?」
「C級。オルトロスよりは弱いが油断は出来ないぞ」
強力なスキルをもたないユーリが、C級に勝ったことはない。
「ゴブリンと違って知能が高いから、息を潜めて背後から襲うこともある」
ユーリの話に不安を覚えたラルカが振り返る。
「――――ユーの言う通りだ」
瞬間。
弾き跳ばされるラルカ。
「なっ!」
繋がった鎖に引っ張られながらユーリも視認する。
もう一体のオーガを。
「こんのっ!」
ぶつかった木を足場にて、ラルカがオーガに飛びかかる。
しかし、死角から現れた腕にまたも吹き飛ばされる。
戦闘音を合図にもう一体のオーガが加勢にきていたのだ。
「もうちょっとだったのに!」
ラルカの一撃は届いていた。
背後から迫ってきたオーガの角は一本折れている。
ラルカの大槌によるダメージだ。
「ラルカ落ち着こう」
オルトロスの時と違いユーリたちの攻撃は通る。
防御面も一人だけなら『堅牢』でノーダメージ。
「勝てない状況じゃない。でも囮が必要だ」
一人で連携するオーガの猛攻を掻い潜り致命傷を与えるのは至難。
「俺が一本角を止めている間に、ラルカは二本角を倒してくれ」
「でも、オーガの攻撃強いよ?」
二人同時に戦う以上、一人は『堅牢』をつかえない。
オーガの一撃はスキルなしで何発も耐えられるものではないと、先の二撃でラルカは実感している。
「当たらないように気をつける」
言い終わる前にユーリはオーガに向かって走り出す。
「わわっ」
「もう! 死んでもしらないからね!」
「ちょっと、相手してくれよな」
視線をオーガに向け刀を構えるユーリ。
小さい人間から敵意を向けられオーガは口角をあげる。
「舐めてくれるならやりやすい」
ラルカが二本角を倒すまでの時間稼ぎであるにも関わらず、攻撃は最大の防御と言わんばかりにユーリは突撃する。
もちろん巨大な拳が振り下ろされる。
決死の覚悟で前へ飛び、拳圧を感じながら躱す。
近づかれたオーガは距離をとりつつ右フックを放つ。
身をよじり迫る右腕を紙一重で躱す。
腕を狙って刀を一閃。
即座に引き戻される巨大な腕を掠める。
間を置いて浮かびあがる緑色の血液をみて、オーガの表情が険しく変わった。
コイツは危険だと本能で察する。
ユーリの思惑通り。
命懸けで突っ込んだ理由は、一方的な狩りではないと自覚させるためである。
一秒でも長くにらみ合いの時間を作ることが、最も安全で最も時間を稼げるとの判断だ。
一方ラルカはオーガに近づけないでいた。
もう一体、オーガが現れたからだ。
「全然近づけないや、困った」
オーガたちは無理に攻撃しない。
一対一で確実にユーリを仕留め、後でゆっくりラルカを囲む算段だ。
「こんなのはどうかなっ?」
ラルカが大槌を木に向けて振るう。
音を立て木が割れるなか、破片をつかみオーガへ突進。
視界の端に迫る拳をとらえたラルカは拳に乗り、跳躍。
同時に破片を眼球目掛けて投げつけ、一瞬怯んだオーガの頭めがけて大槌を振りかぶる。
「いっけぇぇぇえ!」
ラルカが止めを刺そうとしたその時。
「がぁっ!!」
苦痛に歪んだユーリの声が森に響く。
オーガの一撃をその身に受けたのだ。
「ユー!」
倒れ込むユーリへダメ押しの拳が迫る瞬間。
「ダメ!!!!」
ラルカの一声とともに、ユーリへ『堅牢』が移行する。
「ばかっ」
ユーリが力の移行を感じとりラルカへ視線をやると、一度免れた暴力がラルカに再び迫っていた。
「ユー、ごめん。逃げて」
何点ぐらいでしたか?
現実把握のために評価をいただきたい!
00~20点 ★
21~40点 ★★
41~60点 ★★★
61~80点 ★★★★
81~100点 ★★★★★
よろしくねがいしまーーす!